「勝手踏切に鍵付き扉」で万事解決にはならぬ 軒先かすめる江ノ電 渡ってはいけない命の道
私設踏切を正式な踏切にできない理由
江ノ電は私設踏切の存在を把握しながらも、住民たちとの融和を図ってきました。鉄道事業者と住民が、ほどよい距離感を保ちながら共存しているわけです。しかし、冒頭の一件で「勝手踏切」(私設踏切)がクローズアップされることになり、まったく対策を講じないわけにもいかなくなりました。そこで江ノ電は私設踏切を地域住民以外は通行できないようにするため、鍵付きの扉を設置することにしたのです。
鍵付き扉が設置されたのは、稲村ヶ崎駅の近くにある2か所の私設踏切です。ここは同駅から直線距離で10~20mしか離れていません。しかし家から私設踏切を通らずに、線路を挟んだ反対側の駅(改札口)へ向かおうとすると、正式な踏切のある通りまで大幅に迂回することになります。
そうした距離、時間の問題を勘案しても、迂回すべきだとの意見もあるでしょう。しかしこの辺りは海に近く、津波などの災害時には、私設踏切が山側の高台への避難通路を兼ねます。火事が発生した際も同様でしょう。ゆえに私設踏切を完全に廃止することは難しいのです。
ただ、この妥協案をもってしても、一件落着とはならなさそうです。鉄道事業者が費用を投じて扉を設置したことは、逆説的に見れば私設踏切を半ば公認したことにもなるからです。
法律は、正式な踏切以外の場所で線路を横断することを禁じています。扉を設置するくらいなら、踏切へ昇格させればよさそうですが、現行法は原則的に踏切の新設を認めていません。新しく線路を敷設する場合、必ず立体交差にしなければならならないのです。
すると、全国に多数ある私設踏切すべてをどうするのかという問題が浮上します。畑の中や神社の境内を線路が横切っている例もあります。こうした場所すべてに鍵付き扉を設置するのは非現実的です。
法律の狭間で、「勝手踏切」問題はよくも悪くも放置されてきているといえるでしょう。
【了】
Writer: 小川裕夫(フリーランスライター・カメラマン)
フリーランスライター・カメラマン。1977年、静岡市生まれ。行政誌編集者を経てフリーに。官邸で実施される首相会見には、唯一のフリーランスカメラマンとしても参加。著書『踏切天国』(秀和システム)、『渋沢栄一と鉄道』(天夢人)、『東京王』(ぶんか社)、『私鉄特急の謎』(イースト新書Q)など。
黙認でいいんじゃないの?
事故の時は自己責任という事で解決だ。
そもそも、4種踏切の新設を一切認めない法律が間違っていわ。
地元住民のみ利用を認めるにしても
「ここで事故に遭ったら(起こしたら)、民事の賠償も含め、全責任は通行者にある」
といった文書を交わすとか、住民側に責任を持たせるべきです。