庭先に放置の敵戦車は頂戴してOK? 陸と海でも異なる戦時の敵物品入手に関するルール

陸上と異なる海上のルール

 これまでの説明は基本的に陸上での戦闘におけるルールですが、一方で海上におけるルールは少々異なります。公海などを含む一定の海域で武力紛争当事者(今回であればウクライナとロシア)が、もう一方の武力紛争当事者あるいはそれ以外の国の艦船に対して臨検などを実施し、一定の手続きを経てその積荷などを没収する行為を「海上捕獲(maritime capture)」といいます。

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アメリカ海兵隊による、臨検(船舶を拿捕する際、その理由の有無を確かめるために船舶の書類を検査すること)の訓練の様子(画像:アメリカ海兵隊)。

 まず、敵国の軍艦に関して、これを捕獲した場合には戦利品としてその所有権が捕獲した側の国に移ることになりますが、問題となるのは商船とその積荷です。たとえば、敵国の商船、あるいは敵国以外の国を旗国(船籍のある国)とする商船などの積荷のうち、武器や弾薬といった直接戦争に用いられる物資のみならず、食料や燃料といった戦争にも一般の生活にも用いられる物資についても、それが敵国軍隊などに向けられたものであれば、一定の手続きの後に没収されます。つまり陸上の場合と異なり、海上では私有財産なども一定の条件の下で没収の対象となるのです。

 こうしたルールは、もともと戦争が法的に禁止されていなかった時代に発展したものではありますが、戦争を含めた武力行使が原則的に禁止された現代においても引き続き意義を有していると考えられています。日本が当事国となってこうした問題に直面することは、可能な限り避けたいものです。

【了】

元は日本海海戦のろ獲艦 旧日本海軍戦艦「石見」

Writer: 稲葉義泰(軍事ライター)

軍事ライター。現代兵器動向のほか、軍事・安全保障に関連する国内法・国際法研究も行う。修士号(国際法)を取得し、現在は博士課程に在籍中。小学生の頃は「鉄道好き」、特に「ブルートレイン好き」であったが、その後兵器の魅力にひかれて現在にいたる。著書に『ここまでできる自衛隊 国際法・憲法・自衛隊法ではこうなっている』(秀和システム)など。

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コメント

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1件のコメント

  1. 食糧に関しては禁止云々言う以前に現場ではとにかく必要なんだから、現場でそんなこと考えている余裕はないでしょう。