新幹線開業後も「第三セクター移管を免れた」3つの並行在来線 そのカラクリとは JRのまま残った理由

西九州新幹線の場合は「ちょっと違う事情」が

 ところで、開業したばかりの西九州新幹線でも同様に、並行在来線は切り離されず、JRのままで残ることとなりました。ただ、ここの事情は先述とは若干異なり、少し複雑です。

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2022年9月に開業を迎えた西九州新幹線(画像:写真AC)。

 西九州新幹線は、地図上では大村線と大部分で並行しますが、並行在来線は「長崎本線」になります。その理由は前述の背景から、「それまで在来線特急が役割を担っていた区間」を指しているからです。

 長崎本線諫早~長崎間の輸送密度は、2021年度で11332人/日(24.9km)。長崎都市圏ということで利用客が多いため、引き続きJR九州が保有するのも納得です。いっぽうで肥前山口(現・江北)~諫早間は3861人/日(60.8km)と輸送密度が少ないため、当初はJR九州も分離の意向でした。

 ところが分離されなかったのは、当該区間の沿線の同意が得られなかったからです。新幹線の利益をあまり享受できないのに、在来線特急「かもめ」が無くなり、運賃も高くなるという何もメリットがない状況になるからです。この問題が尾を引き、なかなか着工できないという事態に陥っていました。

 そこで肥前山口~諫早間については、地元自治体が主体の第三セクターが施設を保有し、JR九州は施設を借りて運行を担うという、「上下分離方式」を導入することになりました。JR九州が運行する期限は「開業から23年間」となっています。その先も運行が続く保証はありませんが、「JRが経営分離するわけではないので」、着工について地元の同意は必要ないということになりました。このような絶妙な調整を経て、西九州新幹線はようやく着工に至ったのです。

 ※ ※ ※

 並行在来線問題は北陸新幹線新大阪延伸時に再燃するかもしれません。北陸新幹線は敦賀から小浜を経由して京都、大阪に向かうルートが想定されていますが、この場合の並行在来線は、在来線特急「サンダーバード」が走る湖西線となります。

 ここでも上述の西九州新幹線と長崎本線の関係と同様の状況で、滋賀県や沿線市町村は、湖西線を並行在来線として経営分離しないよう求めています。

 長崎本線では博多~肥前鹿島に特急「かささぎ」7往復を設定するという"落としどころ"で対処しましたが、湖西線はどうなるのか。JR西日本の対応が注目されます。

【了】

【地図】なぜか「JRのまま」残った並行在来線区間

Writer: 枝久保達也(鉄道ライター・都市交通史研究家)

1982年、埼玉県生まれ。東京地下鉄(東京メトロ)で広報、マーケティング・リサーチ業務などを担当し、2017年に退職。鉄道ジャーナリストとして執筆活動とメディア対応を行う傍ら、都市交通史研究家として首都圏を中心とした鉄道史を研究する。著書『戦時下の地下鉄 新橋駅幻のホームと帝都高速度交通営団』(2021年 青弓社)で第47回交通図書賞歴史部門受賞。Twitter:@semakixxx

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コメント

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2件のコメント

  1. 篠ノ井〜長野間は特急・貨物の乗り入れがあり、3セク転換した場合料金体系が複雑になることや現在の輸送密度でも赤字路線との分析があることを無視した記事。
    JRが"いいとこどり"しているかのような印象を与える記事だなぁ…

    乗り物ニュースはこの手の変な記事はあまりないイメージだったんだけど…

    • 記事の平均的な質が下がったのは確かだけど、JRが他業種企業並みの金儲けに邁進してるのは事実。
      真犯人は公共交通インフラへケチる国だとは思うけど、銚子電鉄等の頑張りと比べると見劣りしませんか。