バンザイポーズの異形機! アメリカX-29が初飛行-1984.12.14「不安定だからこそ高機動」の意味とは
戦闘機に求められる性能が変化しテスト終了
X-29は前述のとおり2機が製造され、1号機で254回、2号機で120回の飛行試験を実施しています。試験では機首を67度上に向けて飛ぶ高迎え角飛行も行っており、これら一連のテストから前進翼が失速特性とピッチ制御に優れていることを証明し、さらに急旋回などを行う空中戦においても、通常の機体を上回る高機動性を見せつけます。
しかし、X-29以降に前進翼の実用戦闘機が製造されることはありませんでした。なぜなら、前進翼の効果は実証できたものの、戦闘機開発の技術的なトレンドがそれを越えてしまったからです。
エンジンの高出力化や推力偏向ノズルの登場によって、高機動性は前進翼でなくとも実現できるようになり、機体形状についても機動性よりレーダーに見えにくいステルス性を追究する方が優先されるようになりました。
ほかにも、レーダーやミサイルが高性能化したことにより、実際の空中戦で高機動性を生かしたドッグファイトを行う可能性が低下したことも一因です。
これに関しても、halt氏いわく「X-29に採用された前進翼の研究が始まったのは1977(昭和52)年であり、その頃の主力戦闘機はF-4「ファントムII」やF-14「トムキャット」でした。そのような時代の空中戦はミサイルの打ち合いだけでなく、相手の背後を取り合う格闘戦、いわゆるドッグファイトで勝利することが求められており、だからこそ戦闘機の機動性は特に重視されていたのです。X-29は最強といえる戦闘機の一要素として、前進翼の可能性を追求した機体だったといえるでしょう」。
結局、前進翼の戦闘機は実用化こそされませんでしたが、X-29の試験によって得られたノウハウは現在の最新戦闘機の開発に生かされています。前述した、腕を上げたヤジロベエという概念は、静安定緩和(Relaxed Static Stability:RSS)という専門用語で呼ばれ、その特性を備えた航空機のことを運動能力向上機(Control Configured Vehicle:CCV)といいます。
フライ・バイ・ワイヤによって飛行するF-16「ファイティングファルコン」以降の戦闘機開発では、このRSSの概念が設計に盛り込まれており、実はそれら機体の開発過程において、X-29が飛行試験で明らかにした知見がベースになっているといえるでしょう。
【了】
Writer: 布留川 司(ルポライター・カメラマン)
雑誌編集者を経て現在はフリーのライター・カメラマンとして活躍。最近のおもな活動は国内外の軍事関係で、海外軍事系イベントや国内の自衛隊を精力的に取材。雑誌への記事寄稿やDVDでドキュメンタリー映像作品を発表している。 公式:https://twitter.com/wolfwork_info
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