在庫だけの問題じゃない? ウクライナへの戦車供与が全く捗らないもうひとつの理由

供与されても制約バリバリ…どう戦えというのか

 イギリスは真っ先に「チャレンジャー2」戦車の供与を発表しました。その数は14両と、充分とはいえませんが、それでもイギリスとウクライナの関係者間では鹵獲防止策が真剣に検討されています。「チャレンジャー2」の部隊はとにかく前に出さない、孤立させない、戦車は放棄させない、万一に備えて民間軍事会社を使った奪還特殊部隊まで用意する……といった具合です。

「チャレンジャー2」には複合装甲、いわゆる「チョバム・アーマー」など、西側同盟国にも知られていない機密が多くあり、ロシアに露見するのを恐れているのでしょうが、こんな制約付きでどうやって戦うつもりなのでしょうか。

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演習中の「チャレンジャー2」、回収車も見える。戦場では鹵獲を避けるため、孤立させず、回収の準備をしておかなければならない(画像:イギリス国防省)。

 ほかの西側諸国が供与するという戦車も、鹵獲を恐れてか最新型ではありません。アメリカが配備しているM1「エイブラムス」の最新型は「SEPv4」というバージョンですが、ウクライナに供与するのはこれより2世代前の「SEPv2」というバージョンです。ドイツが供与するのも最新の「レオパルト2A7」ではなく、1世代前の「2A6」になります。それでも機密はありますので、ウクライナに届いても「チャレンジャー2」のような制約付きになる可能性はあります。

 ロシアが鳴り物入りで2015年に公開した「アルマータ」シリーズの、T-14戦車やT-15重歩兵戦闘車を出す気配がないのも同じ理由でしょう。そもそも量産にさえこぎつけていないという話も聞かれますが、実力のほどがバレるのを避けるということかもしれません。

 戦車の性能を秘密にしておくのも抑止力です。虚々実々の駆け引きはまだ続きそうです。

【了】

【お下がり】「レオパルト2」現行最新版の「2A7V」と、ウクライナ供与の型落ち「2A6」を見比べる

Writer: 月刊PANZER編集部

1975(昭和50)年に創刊した、40年以上の実績を誇る老舗軍事雑誌(http://www.argo-ec.com/)。戦車雑誌として各種戦闘車両の写真・情報ストックを所有し様々な報道機関への提供も行っている。また陸にこだわらず陸海空のあらゆるミリタリー系の資料提供、監修も行っており、玩具やTVアニメ、ゲームなど幅広い分野で実績あり。

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