35年経て明かされた米軍の対テロ「極秘暗殺ミッション」 敵地攻撃たった12分 しかし相手を怒らせた

作戦は成功したものの、戦略的には?

 一方、空軍のF-111戦闘攻撃機とEF-111電子戦機は、攻撃終了後に地中海上空で再び空中給油を受けるために給油機と合流しましたが、そこでF-111のうちの1機が不明になったことが判明します。

 その1機は給油空域に現れず、後にリビア側の対空砲で撃墜されたことが発覚しています。とはいえ、攻撃部隊が帰路に着いたことを受け、ホワイトハウスではワインバーガー国防長官(当時)が同作戦の実施についてようやく発表を行いました。

 行方不明になった1機を除き、F-111とEF-111、そして給油機部隊は15日朝、在イギリスの米軍基地へと着陸。こうして14時間以上に及んだ長距離ミッションが終了しました。

 ただ、この攻撃はリビアの軍事施設に多大な損害を与えることには成功したものの、独裁者カッザーフィーの暗殺には失敗しました。また、この攻撃でリビア側を怒らせてしまい、彼らの報復行動を呼ぶことにもなりました。そのひとつが、1988年に起きたパンナム103便の爆破テロです。この事件にはリビアが関与したことが明らかになっています。

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アメリカ海軍のA-6攻撃機(細谷泰正撮影)。

 最近明かされた新情報を含め、改めて1986年のアメリカ軍によるリビア攻撃を、時間を追って見てみると、用途別に異なる軍用機が数多くかかわっていたことがわかります。加えて大西洋を横断しての長距離爆撃訓練を事前に実施したり、空中給油機を多めに用意したりと周到な準備をしていたことがわかります。また、今回は省きましたが、アメリカ国防総省を始めとした各司令部などで、空軍と海軍の共同作戦に関する擦り合わせは最後まで行われていたはずです。

 日本では現在、自衛隊に対する敵地攻撃能力の獲得に関する是非が議論されていますが、もし敵地を攻撃しようとするなら、相応の数の作戦機を投入するとともに、予備機も用意し、さらには陸海空の3自衛隊、加えて防衛省内局や情報本部、在日米軍などとの事前調整も必要になるでしょう。

 いまは「エルドラド・キャニオン」作戦を実施したときよりも兵器の多用途化が進んでいるため、当時よりも機種を絞り込むことは可能です。しかし敵地攻撃は、兵器さえあればできるというものではありません。その点で、実は目に見えない部分のノウハウを防衛省・自衛隊が手に入れない限り、難しいといえるのではないでしょうか。

【了】

【写真】リビア爆撃「エルドラド・キャニオン」作戦に参加したアメリカ軍機たち

Writer: 細谷泰正(航空評論家/元AOPA JAPAN理事)

航空評論家、各国の航空行政、航空機研究が専門。日本オーナーパイロット協会(AOPA-JAPAN)元理事

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