「F-16をウクライナへ」の拭えない懸念 誤操作で一発アウトのリスク ロシア機とは根本から違う!
パイロットの生命と引き換えに何を優先する?
ただ、姿勢指示器やその他の違いの問題は訓練によって克服することができます。問題なのはウクライナが戦時だという点。戦いはスピードが重視されるので、パイロットを速成しなくてはなりません。
何度も練習することで無意識に操作できるようになることを「筋肉メモリー」と言いますが、もし敵レーダーの索敵圏外となるステルスを重視した低空飛行作戦中において、ほんの0.1秒だけ、かつて慣れ親しんでいた筋肉メモリーにインプットされているF-16とは逆転している姿勢指示器の操作を反射的に行っただけで事故に直結する可能性があります。
例を挙げるなら、プレイステーションを何十年も遊んでいるプレイヤーは決定ボタンが「◯」であると筋肉メモリーに刻み込まれているはずです。しかしこれは日本だけの仕様らしく、近年では世界共通の「×」が決定ボタンになりました。
プレイステーションでたとえるなら、間違って「◯」を押してしまったとき、F-16のパイロットは事故死することになると言えるでしょう。
またF-16は、高い性能を誇る汎用戦闘機(マルチロールファイター)ですが、それはパイロットが武器の扱いや作戦への高い理解があって初めて機能するものであり、けっして簡単に扱える兵器ではありません。
ウクライナは何を重視し何を諦めるのか、取捨選択に迫られています。優先すべきは時間なのか、安全なのか、はたまたスキルか。事故の危険性が高い低空飛行を諦め高度をあげると、今度は地対空ミサイルの射程に入り脅威に晒されます。どのリスクを引き受けるにしても、その代償はパイロットの生命で支払うことになるでしょう。
【了】
Writer: 関 賢太郎(航空軍事評論家)
1981年生まれ。航空軍事記者、写真家。航空専門誌などにて活躍中であると同時に世界の航空事情を取材し、自身のウェブサイト「MASDF」(http://www.masdf.com/)でその成果を発表している。著書に『JASDF F-2』など10冊以上。
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