100年経っても変わらぬ「戦車の弱点」 史上初の戦車集中戦「カンブレーの戦い」の教訓とは?

100年前から続く戦車の課題点

 しかし、イギリス軍の快進撃もここまででした。実は初日に投入された戦車の半分にあたる約200両が行動不能になっていました。当時の戦車は航続距離が短く、立往生した車両も多かったほか、ドイツ砲歩兵も巧みな戦法で応戦しました。比較的装甲の薄い側面や後方が、野砲での直接射撃や歩兵の迫撃砲によって狙われるなどし、撃破された車両が65両もありました。

 さらに、橋が戦車の自重で崩壊するなどの問題も発生し、戦車は突破口を作る役割こそしたものの、それ以降は目立った動きはありませんでした。

 戦闘が始まってから1週間以上経過した11月30日には、ドイツ軍の反撃が始まります。この戦闘でドイツ軍は、短時間かつ集中的な準備砲火と突撃歩兵による浸透戦術を試験的に運用し、戦線を一気に押し戻します。最終的に戦闘が終了する12月8日には、ヒンデンブルグ線を取り戻しただけでなく、カンブレ戦開始時点の地点よりもややイギリス側に最前線が移る結果となりました。

 初期段階で戦車が集中運用できなくなり、以降は突破口不足となってしまったことで、ドイツに反撃の機会を与えてしまったわけですが、それには前述した、ドイツ砲歩兵による巧みな対戦車戦が効果をあげたことも一因となっています。
 
 実はこの戦いでイギリス軍は、戦車のみを集中的に前線へと突出させる方法を取ってしまい、砲歩兵の待ち伏せに対応できなかったといわれています。当時の戦車は現在の主力戦車と比較にならないほどに視界が悪いもので、多方向へ散開する歩兵を捕捉するには困難が伴いました。

 作戦終了後、イギリス海外派遣軍司令官だったダグラス・ヘイグは、「戦車を行動させるためには支援する歩兵を連れて行かなければいけない」と見解を示しました。

【了】

※一部修正しました(11月28日14時55分)。

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側面を撃たれ撃破されたマーク IV戦車(画像:イギリス陸軍)。

 こうした戦車の弱点は2023年現在も、あまり改善されていないといえます。ガザ地区への攻撃で、歩兵携行の対戦車ミサイルやロケット弾から車両を守るアクティブ保護システム「トロフィー」を備えたイスラエル軍の「メルカバMk.4」が、死角から肉薄攻撃を仕掛けられ損傷するケースなどが発生しています。これは「トロフィー」が周囲へ散弾を発射して来る弾を撃ち落す特性上、近くに歩兵を配置しての直接支援が受けられないためです。100年経ってもまだ、戦車を運用するのには歩兵の助けが必要なようです。

 ちなみに、毎年11月20日はイギリス陸軍で「カンブレーの日」とされており、史上初の戦車集中運用を行った兵士たちを称える日となっています。2023年現在でも同作戦に参加した王立戦車連隊は、世界最古の戦車部隊として現存。「カンブレーの日」の式典で中心的な役割を果たしています。

【了】

【100年後も存続!?】2023年に「カンブレーの日」の式典を行った王立戦車連隊(写真)

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