現代の「海賊」って何なの? 自衛隊も海保も戦う「人類共通の敵」に複雑な定義が必要なワケ
なぜ海賊の定義は細かいの?
このように、海賊行為の定義について、国際法ではさまざまな要件が課されていることがわかるでしょう。それでは、なぜ海賊行為というものがここまで細かく定義されているのでしょうか。その理由の一つに、海賊が例外的な存在という点が挙げられます。
人間に国籍があるように、船にも国籍といえるもの、すなわち「船籍」があります。ゆえに、その船が掲げる旗の国(旗国)が、その船に対して管轄権を及ぼすことができるようになっています。これを「旗国主義」といいますが、とくに公海上において船舶は旗国の排他的な管轄権に服すること、とされています。つまり、その船に乗っている人や物などに関して、旗国以外の国が自国の法律を執行したり、乗員を逮捕して裁判にかけたりするといったことは、通常できないのです。
こうした旗国主義の例外の一つが、海賊です。海賊は、さまざまな国の船舶を無差別に襲うなどして、海上交通の安全を害する存在です。そのため、「人類共通の敵」とされる海賊に対しては、どの国であっても、海賊船を拿捕して乗員を逮捕し、訴追することが許されているのです。これを、「普遍的管轄権」といいます。
このように、旗国主義の例外として、その他の海上における不法行為とは区別する必要性から、徐々に緩やかになってきたとはいえ、海賊行為の定義は厳格に定められているのです。
昨今の情勢と関連して、中東海域でイエメンの反政府勢力である「フーシ派」がイスラエル関連の船舶を襲撃する事例が発生しています。これが海賊行為に該当するかどうか、今後議論が必要になるでしょう。
【了】
Writer: 稲葉義泰(軍事ライター)
軍事ライター。現代兵器動向のほか、軍事・安全保障に関連する国内法・国際法研究も行う。修士号(国際法)を取得し、現在は博士課程に在籍中。小学生の頃は「鉄道好き」、特に「ブルートレイン好き」であったが、その後兵器の魅力にひかれて現在にいたる。著書に『ここまでできる自衛隊 国際法・憲法・自衛隊法ではこうなっている』(秀和システム)など。
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