「原子力潜水艦が爆発!」あわや大西洋が死の海に 多くの乗組員を救った“決断”がお咎めナシになったワケとは

1986年10月、ソ連の原子力潜水艦K-219が起こした事故は、原子炉のメルトダウンによって、大西洋を「死の海」にしかねないほどの大事故となりました。それを防いだのは艦長の苦渋の決断と、船員の勇気でした。

本国命令を無視し総員退艦を決断

 この時点でK-219は完全に航行能力を失っていましたが、近海を航行していたソ連の貨物船を曳航船として、本国に帰還しようと考えられていましたが、既に浸水がひどい状況で有毒ガスも艦内に充満しつつあり、難しい状態となっていました。

 しかし、そうした状況でありながら本国からの指令は、「艦を修復し哨戒活動を継続せよ」という冷酷なものでした。たしかに、事故を起こした場所はアメリカに近く、ソ連としてはそんな場所で沈没されては非常に困った事態になります。失態を世界にさらすことのみならず、アメリカに発見されて技術の漏洩が起こる可能性もあり、搭載した核兵器一式が海の藻屑となることも避けたい事態でした。

 艦がもう持たない状況であることは、現場のブリタノフ艦長から見れば明らかでした。そこで艦長は、艦内全ての区画に有毒ガスが侵入したことを理由に、本国の命令を無視して、総員退艦を命令。生存する乗員を曳航船へ退避させました。本国からは乗員を潜水艦へ戻し、職務に復帰せよと命令が届き、さらに航空機から復旧のための資材などが投下されましたが、投下物の多くは破損し、潜水艦で受け取ることはできませんでした。

 沈みかけた艦に残っていたブリタノフ艦長も乗組員が曳航船に退避を終えると、もはやこれまでとゴムボートに飛び乗りこみました。既に、騒ぎを聞きつけ周辺にはアメリカ軍の艦艇が集結しており、K-219は、最終的に事故から3日後の1986年10月6日に深海約6000mへと沈んでいったのです。

 艦長はその後、職務怠慢、反逆の罪などにより訴追、極刑となることが予想されていました。しかし、軍法会議に向けて待機させられていた1987年5月、モスクワの中心部、赤の広場に西側のセスナ機が着陸するという大事件が起き、ソビエト軍は大混乱に陥ります。

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赤丸がK-219の沈んだとされる位置(画像:パブリックドメイン)

 その責任を問われ国防相が解任されると、新たな国防相は「K-219の艦長の行動は正しかった」として訴追を取り下げたため、彼は命拾いすることになりました。

 なおソビエトは、この事故の発端となった爆発はアメリカの潜水艦「オーガスタ」との衝突により生じた、と主張していますが、アメリカ政府は現在も否定し続けています。

【了】

【あ…ミサイル発射管がボロボロ】これが、事故を起こした直後のK-219です(写真)

Writer:

なぎはまな。歴史は古代から近現代まで広く深く。2019年現在はフリー編集者として、某雑誌の軍事部門で編集・ライティングの日々。趣味は自衛隊の基地・駐屯地めぐりとアナログゲーム。

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