「地方都市に地下鉄」無理なのか? 浮かんでは消える新線構想 広がらない切り札“ミニ地下鉄”

しかし「ミニ地下鉄」もネックとなったのは…

 1988(昭和63)年の地下鉄協会会報誌『Subway』は、伊能氏が司会を務める「21世紀金沢都市圏の交通について」と題したセミナーで、運輸省や金沢経済同友会の担当者や学識経験者が北陸新幹線と同時の開業を念頭に課題を共有する様子を伝えています。

 ミニ地下鉄実現のカギを握ったのがリニアモーターでした。電磁石とリアクションプレートを反応させ鉄輪で走行するリニアは、モーターで走行しないので急勾配、急曲線に対応可能で、車体を低くできるためトンネル断面をさらに縮小できるというミニ地下鉄とよくマッチする技術でした。

 当時、次世代の交通システムとして、現在のゆりかもめのような「新交通システム」が注目されていましたが、これは鉄輪ではなくゴムタイヤで走るため、一定以上の客を乗せられず、摩擦が大きいためエネルギー効率でも劣ります。「リニアメトロ」は地下鉄が生き残るための切り札だったのです。

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神戸市営地下鉄海岸線の三宮・花時計前駅(画像:写真AC)。

 興味深いのは、同じくゴムタイヤで走行するモノレールの動きです。日本モノレール協会は1980年代、新交通システムの攻勢に対抗すべく高架を走る鉄輪式リニアモーター「リムトレイン」を提唱し、新交通システムの伸長に対抗しました。

 しかし、リニアメトロは前述の大阪、東京のほか、神戸、福岡、横浜、仙台の導入にとどまり、中規模地方都市には波及しませんでした。

 建設費は一般的な地下鉄の1kmあたり300億円より安いとはいえ、神戸市営地下鉄海岸線が約2400億円(1kmあたり約300億円)、福岡市地下鉄七隈線(橋本~天神南間)は約2800億円(同約233億円)、仙台市地下鉄東西線は約2300億円(同約159億円)を要しました。

 都市によって建設費と営業成績に差はありますが、海岸線に至っては開業20年で一度も黒字化せず、累積赤字が1000億円を超える有様で、地方都市が受け入れ可能なシステムとはなりませんでした。

 これはモノレールや新交通システムについても同様で、当初は道路上空を活用できる安価な交通機関として期待されたものの、支柱設置に道路拡幅が必要など、想定以上の費用を要することが分かり、地方での採用例は僅かです。

 一方で、沖縄都市モノレール「ゆいレール」(那覇空港~首里間)13.1kmは総事業費約1100億円(1kmあたり約84億円)、国内初の新設LRTである宇都宮ライトレール(ライトライン)14.6kmは約680億円(同約47億円)に収まっており、どちらも事業として成立しています。

 地方の交通機関は、地下鉄など特定の輸送モードありきではなく、需要や地勢に合わせた適材適所の選択が重要ということが分かります。

【了】

【うおーー狭い!】これが「ミニ地下鉄」です(写真)

Writer: 枝久保達也(鉄道ライター・都市交通史研究家)

1982年、埼玉県生まれ。東京地下鉄(東京メトロ)で広報、マーケティング・リサーチ業務などを担当し、2017年に退職。鉄道ジャーナリストとして執筆活動とメディア対応を行う傍ら、都市交通史研究家として首都圏を中心とした鉄道史を研究する。著書『戦時下の地下鉄 新橋駅幻のホームと帝都高速度交通営団』(2021年 青弓社)で第47回交通図書賞歴史部門受賞。Twitter:@semakixxx

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