「後方へ撃てない戦艦」そもそもなぜ考案? 大和型でも検討された主砲の前部集中配置 実戦投入したら「ヤバ…」
実戦で分かった「応戦できない」という致命傷
フランスはさらにリシュリュー級戦艦を就役させます。基準排水量を3万5560tに増加させたことで、38cm4連装主砲2基8門、30ノット(55.6km/h)、舷側装甲330+18mm傾斜、水平装甲170+10mmの性能を持ち、排水量が近い同世代戦艦の中では最高の装甲厚を誇りました。
なお、興味深いのは計画時の主砲配置です。第5案と6案では艦橋の後ろ、艦中央部に4連装砲塔2基という配置でした。弾薬庫を艦中央部に集中でき重防御となる、対空砲の射界が広いといった利点はあるものの、前後に主砲が撃てないことは「あり得ない」として、採用には至りませんでした。
主砲塔を2基に抑えたこともあり、ダンケルク級やリシュリュー級戦艦では、劣悪な運動性や爆風などが問題となることはなかったようです。しかし、フランス戦艦は実戦で主砲配置が問題視されます。1940(昭和15)年7月のメル・セル・ケビル海戦では、ダンケルク級2隻が艦首を陸地方面に向けて停泊していたため、後方から接近したイギリス艦隊に応戦できませんでした。「ストラスブール」は脱出したものの追撃され、ここでも後方に主砲が撃てなかったのです。
「リシュリュー」も同年9月のダカール沖海戦の際、艦首を北側に向けて停泊していたので、南側から迫るイギリス艦隊に対し“方向転換して”応戦することになりました。こうしたこともあり、フランスではリシュリュー級4番艦である「ガスコーニュ」より主砲配置を前後部とし、続くアルザス級戦艦では406mm3連装砲塔3基を、前部2基、後部1基に配置することとしました(どちらも未完成)。
なお、日本は利根型重巡洋艦で主砲塔前部集中配置を採用していますが、こちらは主砲塔が軽く爆風も小さいこともあり、特に問題はなかったようです。艦後部を航空設備にでき、航空巡洋艦として索敵にも活躍しています。
【了】
Writer: 安藤昌季(乗りものライター)
ゲーム雑誌でゲームデザインをした経験を活かして、鉄道会社のキャラクター企画に携わるうちに、乗りものや歴史、ミリタリーの記事も書くようになった乗りものライター。著書『日本全国2万3997.8キロ イラストルポ乗り歩き』など、イラスト多めで、一般人にもわかりやすい乗りもの本が持ち味。
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