ステルス戦闘機F-35の“怪物エンジン” なぜ更新が急務? 次世代モデルへ避けて通れない壁とは
新エンジンのキモは「第3の空気流」
ターボファンの構造を簡単に解説すると、まず、エンジン前方から空気を取り込む際、ファンを通って内部へと入った空気は燃焼室へ導かれる熱い「コア流」と、燃焼室を通らず排出される冷たい「バイパス流」の2つに分けられます。ここで、コア流が大きいほど超音速飛行時における効率が上昇し、逆にバイパス流が大きいほど亜音速以下での飛行に適した状態となります。
そのため、2つの空気流の比「バイパス比」は飛行機の目的によって決定され、たとえば旅客機用エンジンでは大きなバイパス比が与えられ、F-35のような戦闘機ではバイパス比が低くなる傾向にあります。
アダプティブエンジンでは、このバイパス比を可変させることができ、あらゆる状態においてエンジンの性能を引き上げることが可能となります。XA100とXA101はF135と比較して、推力は20%向上し、また燃費の改善によって航続距離はF135搭載機と比べて25~30%増大すると見積もられています。
また、極めて興味深い特徴として、XA-100とXA-101ではコア流とバイパス流に加え「第3の空気流」を持つ点が挙げられます。この第3の空気流はF-35の抱える深刻な問題への解決策となることが期待されています。
F-35の抱える深刻な問題とは「熱管理」です。現在、F-35は性能向上型である「ブロック4」と呼ばれるバージョンが生産されていますが、ブロック4ではアビオニクス(搭載電子機器)が刷新された結果、すでに当初の倍以上の熱を発生しています。今後さらなる性能向上が図られた場合、F-35は冷却能力不足に直面することが予想されています。
第3の空気流はアビオニクスの冷却に用いることが可能であり、性能向上の余地を著しく拡大させることが期待されます。また、これまで困難であった装備品、たとえば桁違いに大量の熱が発生する「指向性エネルギー兵器」すなわちレーザーの搭載といった新しい可能性も切り開くことになるかもしれません。
アダプティブエンジンはF-35の飛行能力を大幅に引き上げるだけではなく、その強力な冷却能力でF-35が持つ「飛行する情報処理端末」としての能力についても、拡大させることが期待されています。
【了】
Writer: 関 賢太郎(航空軍事評論家)
1981年生まれ。航空軍事記者、写真家。航空専門誌などにて活躍中であると同時に世界の航空事情を取材し、自身のウェブサイト「MASDF」(http://www.masdf.com/)でその成果を発表している。著書に『JASDF F-2』など10冊以上。
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