「終列車で下車?おやめください!!」全力で制止される“秘境駅”なにがある? 電波ナシ道ナシ家もない!

夏場の訪問 虫よけは必携!

 周囲を見渡すと、高いホームには2体の狸像と待合室があります。狸は井川線各駅に設けられた創作狸話にまつわるもの。いわば、この駅の住人的存在です。隣にある小屋の待合室は帰りの列車まで滞在できます。

 ただし、アブ、ブヨ、軒下には蜂……。刺されたら痛そうな昆虫たちが先客でした。待合室の周りにはヤマビルも潜んでいます。尾盛駅の自然界は生き生きしており、虫除けなどは必携です。

 虫を刺激しないようそっと待合室で佇んでいると、保線員の若い男性が訪れました。沿線の倒木処理をしながら、尾盛駅の清掃も実施しているとか。秘境駅とはいっても鉄道会社が管理するれっきとした駅です。通行の妨げになる雑草を刈り、待合室内を掃除し、補修箇所があったら後日修繕します。

 待合室内には鉄道電話があり、保線の方によると「11番を押すと井川線の運行管理所へと通じます。何かあったらこの番号で」とのことでした。

 秘境駅を訪れる者は、誰もいないが駅という“社会”にいる認識で、ゴミは持ち帰る、立入禁止は守る、待合室は汚さずと、当たり前のことを心掛けましょう。集落跡にも危険が潜んでいます。稀に徒歩で来る人もいるらしいですが、大井川鐵道としては立入禁止区域には入らず、鉄道で行き来してくださいと強く訴えています。

 尾盛駅は大都会から気軽に列車で来られますが、環境は大自然の中の山小屋です。夏場は蒸し暑いときもあり、熱中症対策はしっかりとしながら、ある程度の飲食物も必携です。また井川線は、自然と隣り合わせゆえに突発的な運休もあり、計画も余裕を持った方が無難です。

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待合室は壁こそリノベーションしているが木造で、見た目は半世紀以上経ってそうだ。裏手はすぐ斜面。きっとヤマビルの天下だろう(2024年8月、吉永陽一撮影)。

 この秘境駅はひとたび列車を降りると、自然界の音しかしません。人はちっぽけな存在なのだなと思っていると、日々の生活のギスギスした感情も洗われていくような気がしてきました。

【了】

【写真】集落跡も! これが大自然の中の秘境駅です

Writer: 吉永陽一(写真作家)

1977年、東京都生まれ。大阪芸術大学写真学科卒業後、建築模型製作会社スタッフを経て空撮会社へ。フリーランスとして空撮のキャリアを積む。10数年前から長年の憧れであった鉄道空撮に取り組み、2011年の初個展「空鉄(そらてつ)」を皮切りに、個展や書籍などで数々の空撮鉄道写真を発表。「空鉄」で注目を集め、鉄道空撮はライフワークとしている。空撮はもとより旅や鉄道などの紀行取材も行い、陸空で活躍。

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