「こんな欲張り電車は他にない」 大手私鉄3社ミックス“魔改造譲渡車”ついに引退 残る名車の行方は
島根の一畑電車で、京王電鉄の初代5000系を譲り受けた5010編成が引退。この電車、ただの京王5000系ではなく、関係者が「こんな欲張りな電車は一畑だけ」と豪語する、とびきり異色の“魔改造譲渡車”です。
なぜか片側だけにロマンスカーの座席
設置されたクロスシートは回転式の2人掛けと転換式の1人掛けの配置で、うち2人掛けは小田急電鉄の特急用車両「ロマンスカーNSE」3100形の座席を流用しています。NSEは小田急で初めて前面展望を楽しめるように運転席を2階に設けた画期的な車両で、1963年から2000年まで活躍しました。
最終運転日に訪れた筆者(大塚圭一郎:共同通信社経済部次長)は、なぜロマンスカーNSEの座席が採用されたのかが気になっていました。そこで、一畑電車の野津昌巳営業部長にたずねると「改造時にクロスシートを装着するという話が出ていた中で、廃車になったロマンスカーNSEの座席が出物であるという流れだと聞いています」と教えてくれました。
片側だけにロマンスカーNSEの座席が設置された背景については、こう説明してくれました。
「検討段階では全席をNSEのシートにするという案も出たのですが、この列車は通常の列車でも利用され、弊社は後ろ乗り前降りのワンマン運転のため真ん中の通路も車いすが通れるサイズを確保しなければなりませんでした。両席にNSEのシートを置くと車いすでは通れないため、片側だけになりました」
反対側の1人掛けの座席は新造し、旧ロマンスカーNSEの座席も1人掛けと同じ生地に張り替えたそうです。
東京メトロもミックスされている!?
この編成には、特に首都圏の鉄道愛好家をひきつけるもう1つの“縁の下の力持ち”が存在します。それは「台車」。線路幅(軌間)が1372mmの京王電鉄京王線から移籍する際、一畑の1067mmに対応するために換装されているのです。
ラストランに案内役として乗務した営業課の黒川好美さんが、車内放送でこう説明しました。
「京王電鉄の車体、ロマンスカーの座席、東京メトロの台車と、1つの電車で何と3社の車両が楽しめる欲張りな電車です」
5010号編成には、旧帝都高速度交通営団(現・東京メトロ)日比谷線で1961~94年に走っていた初代車両3000系の台車が使われています。
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