「つま先立ちでも弾けます」揺れる車内で演奏しすぎて得た“特異な能力”とは? 「世界一列車に乗っているバイオリニスト」が超人的だった
豪華観光列車「ザ・ロイヤルエクスプレス」などに同乗し、揺れる車内で立ちながらバイオリンを奏でる大迫淳英さん。「揺れに一番強いバイオリニスト」は、もはや「超人的」と呼ぶべき境地に達しているようです。
「世界一列車に乗っているバイオリニスト」の職人芸
筆者の知り合いのJR九州幹部は「揺れる列車で立ちながら演奏できるバイオリニストは大迫さん以外に知らない」と舌を巻いていました。この点を質問すると大迫さんは笑みを浮かべて「私は揺れにはたぶん一番強く、世界で一番列車に乗っているバイオリニストだと思います」と認め、「つま先立ちしても弾ける」と豪語しました。
揺れる列車でつかまらずに立っていられる秘訣は「脱力なんですよね」と明かしました。これは、靴底を床に密着させて踏ん張っているのではないかという筆者の想像とは真逆でした。大迫さんは「踏ん張るとうまくいかないです。だから脱力して、列車に揺れを任せると、体が一致してくるのです」と打ち明けました。
経験を積み重ねると「こっちにこのような揺れが来るとかが分かる」とか。それでも「運転は運転士によって結構様々で、揺れは毎回違う」というので、立ちながら音色を奏でるのは“線路上のバイオリニスト”ならではの職人芸と言えそうです。
大迫さんが立ちながら演奏するのには「ピアノは動かないけれども、バイオリンは目の前まで行けるので機動力を生かしたい」というこだわりがあります。「目の前でお客様のリクエスト曲に応えたり、聞こえやすい場所や見やすい場所に行けたりする」強みを生かし、鉄路を進む列車と“伴奏”するように「お客様の旅に感動を作りたい」と意気込みます。
駅にも出張ります!
大迫さんの生演奏を堪能できる「ザ・ロイヤルエクスプレス」の四国・瀬戸内クルーズの参加料金は最低でも1人当たり96万円と、敷居が高いのは否めません。それでも、参加者を温かく出迎えてくれる地域住民らに謝意を示すため、大迫さんは一部の到着駅のプラットホームでは電気バイオリンを奏でる「ミニコンサート」を開いています。
「列車の窓ガラスを隔てて全然世界が違うものの、音楽だけでも出て行って、お客様に車内の雰囲気を届けたい」という大迫さんが奏でる美しい音色と優しい心遣いも乗せながら、ザ・ロイヤルエクスプレスは四国・瀬戸内エリアを快走していきます。
Writer: 大塚圭一郎(共同通信社経済部次長・鉄旅オブザイヤー審査員)
1973年、東京都生まれ。97年に国立東京外国語大学フランス語学科卒、共同通信社に入社。ニューヨーク支局特派員、ワシントン支局次長を歴任し、アメリカに通算10年間住んだ。「乗りもの」ならば国内外のあらゆるものに関心を持つ。VIA鉄道カナダの愛好家団体「VIAクラブ日本支部」会員。
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