「タイヤ+キャタピラ=万能車両」にならない!? 良いとこどり「ハーフトラック」なぜ半端モノに?

かつてアメリカ軍やドイツ軍などで広く使われた「ハーフトラック」という乗りもの。いまではすっかり姿を消しています。一見すると、履帯とタイヤ駆動の良いとこどりに思えるのですが、なぜ多用されなくなったのでしょうか。

農業用や林業用としては今も現役

 一方、軍に目を転じると、これよりも早い第1次大戦の時点で、泥濘化した最前線の不整地において、戦車に追随して歩兵を運べる車両が求められていました。

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アメリカ製のM3ハーフトラック。写真の車体は派生型のM16対空自走砲で、車体後部に12.7mm重機関銃の4連装銃架を搭載しているのが特徴(柘植優介撮影)。

 当初はこれに応えるべく、戦車のような装甲板を備える全装軌式の輸送車両が開発されます。しかし、戦車に似た構造のため、製造コストはあまり変わらず、それでいて機械的信頼性に欠け、メンテナンスも厄介という、なんとも使えない車両でした。

 しかしシトロエンによって広く世に出たハーフトラックは、自動車よりも製造コストはかかるものの、戦車のような全装軌車よりはるかに安く、すでに確立されていた自動車テクノロジーの延長線上で造られていたので、戦車とは違って運転もメンテナンスも容易でした。

 しかも戦車ほどの不整地走行性はありませんが、トラックなどの自動車と比べてかなり戦車に追随できる能力を持っていたので、折から脚光を浴びていた戦車を主体とする「機動戦」における兵員輸送や火砲の牽引に最適と判断されます。

 こうしてハーフトラックは、第2次大戦においてアメリカやドイツを中心に大量に用いられ、世界中で活躍しました。

 しかし戦後、全装軌式の車両技術がより進化し、廉価での量産も可能になると、ハーフトラックは中途半端な車両とみなされるようになります。なぜなら、全装軌の方が不整地走行性に優れるため、戦車などに追随する能力も勝っているうえ、大重量にも耐えられる足回りだからです。加えて、ハーフトラックよりもずっと堅固な装甲を施すことが可能であり、兵員室もオープン・トップではなく天井を設けて密閉式にできるため、乗員保護の面でも格段に優れていました。

 こうして、ハーフトラックは主役の座を降りることになり、第一線から姿を消していったのです。しかし、イスラエル国防軍や自衛隊では、20世紀後半まで一部で使用が続けられていました。また民間に目を転じると、既存の自動車車体をベースに比較的簡単に不整地走破性を上げることが可能で、かつドライバーも自動車を運転するのと同じ要領で操作できることから、農業用トラクターや林業用の運搬車両などで多用されています。

 過去には、ホンダが軽トラックベースのハーフトラックを発売していたこともありました。

【軽自動車ベースかよ!】これがホンダ純正「ハーフトラック」です(写真)

Writer:

東京・御茶ノ水生まれ。陸・海・空すべての兵器や戦史を研究しており『PANZER』、『世界の艦船』、『ミリタリークラシックス』、『歴史群像』など軍事雑誌各誌の定期連載を持つほか著書多数。また各種軍事関連映画の公式プログラムへの執筆も数多く手掛ける。『第二次世界大戦映画DVDコレクション』総監修者。かつて観賞魚雑誌編集長や観賞魚専門学院校長も務め、その方面の著書も多数。

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