押すときは全面核戦争… 超音速ジェット爆撃機が備える「便利なボタン」何のため? 米搭乗員に聞いた
アメリカが運用するB-1B「ランサー」戦略爆撃機には、緊急時用のエンジン始動スイッチが機首下部にあります。ただ、このスイッチを押すときは世界が終わる直前かもしれません。一体どういうことでしょうか。
用途は核戦争用? あくまで緊急時の手段
航空機のエンジンを始動する際に多くの手順が必要なのは、さまざまな操作をするだけでなく、安全のために確認作業も合わせて行うからです。

「アラート・スタート」ボタンを使うと機体始動作業が早くなるだけでなく、これら確認作業も省略されるため、エンジンや機体にある不具合を見逃す可能性もあり、安全の観点からは決して良いものではありません。
では、なぜそのようなボタンをあえて用意していたのかというと、実は世界規模の核戦争に備えたからでした。B-1はもともと核兵器を搭載することが可能であり、アメリカとソ連(現ロシア)が対立する冷戦時代には、核戦力の一翼として運用されていました。仮に米ソがお互いの核兵器を使用する全面核戦争が発生した場合、相手の核兵器が発進基地に到達する前に離陸する必要があり、機体と国の存亡が関わる瞬間では安全よりもスピードが優先されたのです。
幸いなことに米ソの全面核戦争は起こらず、B-1も核兵器の運用能力を封印され、現在はその任務から外されています。核攻撃に備えた緊急発進の必要性もなくなったため、この「アラート・スタート」ボタンも使われなくなったというわけです。
「現在ではこのボタンを使って機外からエンジンを始動することはありません。機体を始動するときは機内に私たちクルーが乗り込み、通常の手順で安全で確実にエンジンを始動して発進していきます」(B-1乗員)
現在では使われなくなった「アラート・スタート」ボタンは、スイッチ周辺の注意書きも消えてどこか古びた雰囲気がありました。しかし、この装置が目に見える形で残っているのは、40年ほど前は紛れもなく全面核戦争が実際に起こりうるものとして考えられていたからにほかなりません。
このスイッチが実戦で使われなかったことは、人類にとって喜ぶべきことだといえるでしょう。
用するため、機首部分にこのようなスナイパーXRターゲティングポッドを新しく搭載している(布留川 司撮影)。
Writer: 布留川 司(ルポライター・カメラマン)
雑誌編集者を経て現在はフリーのライター・カメラマンとして活躍。最近のおもな活動は国内外の軍事関係で、海外軍事系イベントや国内の自衛隊を精力的に取材。雑誌への記事寄稿やDVDでドキュメンタリー映像作品を発表している。 公式:https://twitter.com/wolfwork_info
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