ブサイク過ぎる… 傑作「シャーマン」戦車ファミリーの“異端児” 頭でっかちのヘンテコになったワケ

アメリカ軍の主力中戦車M4「シャーマン」には数々の派生型が存在しますが、なかでもひときわ異形なのがT31でしょう。「破壊戦車(デモリション・タンク)」と名付けられた、この異端児がなぜ生まれ、量産されなかったのかひも解きます。

1台で何でもできる汎用工兵車両に

 この巨大な砲塔は、M4A3E8「イージーエイト」の車体と組み合わせられましたが、車体底部も地雷などを踏んでも耐えられるよう、床面の装甲厚が原型よりも13mm厚くされ38mmに強化されています。

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T31破壊戦車の砲塔アップ。中央の砲身はダミーで、その下に見える半球状のものが7.62mm機関銃のボールマウント(画像:アメリカ陸軍)。

 車体には、普通のM4A3E8と同じく右側に前方機銃が備えられていましたが、その上の車体銃手ハッチには火炎放射器のノズルが取り付けられており、火炎放射も行えるようになっていました。

 さらに車体前端には、M4シリーズに装着使用されるドーザー・ブレードが備えられ、残骸や土砂の排除も可能でした。

 こうしてT31は、ロケット弾による障害物や堅固な陣地の破壊、火炎放射による塹壕陣地などへの攻撃、ドーザー・ブレードによる敵前での土木作業が行える、多機能な戦闘工兵車として完成。アメリカ陸軍は本車に「破壊戦車」という意味の「Demolition Tank(デモリション・タンク)」という名称を付与しています。

 完成した試作車は、1945年8月にアバディーン試験場でテストに供されます。その結果、ロケット弾発射機に問題があることが判明しましたが、そのテストとほぼ時を同じくして日本が無条件降伏し、第2次世界大戦が終結したため、このような戦闘工兵車両の必要性が消滅。結果、前述したロケット弾発射機の問題が改修されることはなく、1946年1月に開発中止となってしまいました。

 試作車1両のみしか造られず、その唯一の車体も最終的に解体されてしまったため、現存していません。しかし、すべての要素を1台に詰め込もうとした結果、まさしく異形となってしまったが、このT31「デモリション・タンク」です。

 もし現存していたら、間違いなくアニメやマンガ、映画などで注目を集めたのではないでしょうか。

【まるで宇宙人顔?】前から見ても上から見ても「ヘンテコ」なT31をイッキ見(画像)

Writer:

東京・御茶ノ水生まれ。陸・海・空すべての兵器や戦史を研究しており『PANZER』、『世界の艦船』、『ミリタリークラシックス』、『歴史群像』など軍事雑誌各誌の定期連載を持つほか著書多数。また各種軍事関連映画の公式プログラムへの執筆も数多く手掛ける。『第二次世界大戦映画DVDコレクション』総監修者。かつて観賞魚雑誌編集長や観賞魚専門学院校長も務め、その方面の著書も多数。

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コメント

1件のコメント

  1. こういう後付装備のために不格好になった車両の方がただカッコイイ車両よりも魅力を感じるのは私だけだろうか・・・

    後付、ポン付け、無理な拡張から来るこの違法建築感がたまらない(笑)