東京の鉄道「最も急な坂」とは? 実は“伝説の急勾配”と同等!? 基準超え“特別認可”の坂も多数のワケとは
登山鉄道だけが、急勾配を上り下りしているわけではありません。実は大都市の東京にも急勾配を上り下りする路線が複数存在し、日夜多くの列車が行き交っています。今回はそのような箇所をいくつか紹介します。
特別設計認可を得た急勾配地下鉄の数々
国内で最も急勾配を走行する粘着式鉄道は前出の小田急箱根鉄道線で、その値は最大80パーミルに達します。海外には100パーミルを超える勾配の路面電車も存在しており、鉄道だからといって坂を登れないわけではありません。
ただ、勾配に対応した強力なモーター、複数系統の非常ブレーキ、粘着力を高める補助装置などの各種装備が必要で、しかも低速運転しかできません。道路上を走る路面電車や、山を登ることが目的の登山鉄道でもない限り、わざわざ急勾配を設ける必要がないのです。
都心の急勾配は路面だけでなく地下にもあります。地下鉄は他路線のトンネルや共同溝などを避けて地中を上下に縫うように走っています。長堀鶴見緑地線や大江戸線などミニ地下鉄は、リニアモーターで走行する非粘着式駆動のため、50パーミル以上の勾配が可能ですが、一般的な地下鉄路線は通常の鉄道と同様です。
●東京メトロで一番の急勾配=“日本一”も!?
その中で35パーミルの基準を超える区間のひとつが、日比谷線の南千住~三ノ輪間です。地上駅の南千住から常磐線貨物支線(隅田川線)を越えた後、一気に昭和通りの地下に入るため、やむを得ず39パーミルの急勾配で特別設計認可を得ました。
これを上回るのが副都心線新宿三丁目~東新宿間です。副都心線新宿三丁目駅は丸ノ内線と都営新宿線のトンネルの間、東新宿駅は大江戸線の下に設置しなければならず、また、東新宿駅は急行運転の待避設備を道路下に収めるため、上下二段式のホームにする必要がありました。
東新宿駅上段ホームから新宿三丁目駅に向かうA線(池袋→渋谷方面)トンネルは30パーミルですが、新宿三丁目から深い東新宿駅下段ホームに向かうB線(渋谷→池袋方面)トンネルは40パーミルの勾配で造られています。
同様に、上下式ホームへ接続する関係で40パーミルの急勾配なのが、東西線の早稲田駅から神楽坂駅の下段ホームに向かうA線(中野→西船橋方面)トンネルです。また、営業線ではありませんが、東陽町駅と深川車両基地を結ぶ入出庫線にも40パーミルの勾配があります。
両路線の40パーミルという勾配は、粘着式の地下鉄では日本最大です。ただ副都心線と東西線は下り坂方面のみの運転なので、営業線の上り坂に限ると39パーミルの日比谷線トンネルが最急勾配ということになります。
Writer: 枝久保達也(鉄道ライター・都市交通史研究家)
1982年、埼玉県生まれ。東京地下鉄(東京メトロ)で広報、マーケティング・リサーチ業務などを担当し、2017年に退職。鉄道ジャーナリストとして執筆活動とメディア対応を行う傍ら、都市交通史研究家として首都圏を中心とした鉄道史を研究する。著書『戦時下の地下鉄 新橋駅幻のホームと帝都高速度交通営団』(2021年 青弓社)で第47回交通図書賞歴史部門受賞。Twitter:@semakixxx
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