上野駅の「頭ぶつけそうなほど天井が低い通路」なぜ存在? 実は“ターミナル駅ならでは”の工夫!? もとの姿をひもとく!
JR上野駅には、頭をぶつけそうになるほど天井の低い通路があります。高さに余裕がなく、トラテープを貼って注意を促している状況ですが、なぜこのような低い天井が生まれたのでしょうか。話は、駅舎ができた約90年前に遡ります。
上野駅の「上下2段」設備は現役!
それ以外にも上野駅舎は「上下2段」を徹底して意識した駅でした。
昭和初期は鉄道利用者が急増し、旅客の流動を制御する必要性が高まった時代で、バスやタクシーなど自動車交通との連携も重要になってきました。そこで上野駅の正面玄関口は、1階(現在の改札階)を乗車口、地下1階を降車口として、スロープと車寄せを設置し、自動車や歩行者の導線を分けました。
乗客と降客はそれぞれ改札に向かって左側を通過し、降客は改札の先にある階段から地下に降り、そこで手荷物を受け取って外に出ました。また、地下1階には、現在の浅草口付近から不忍口前まで公衆地下道を整備し、駅舎竣工の5年前に開業した地下鉄(銀座線)との乗り換え階段を設置しました。
降車口がいつまで使われていたのか、明確な記録は確認できませんでしたが、1974(昭和49)年頃の写真では使用が確認できるため、1978(昭和53)年の東北新幹線上野駅着工に前後して廃止されたと思われます。
かつての名残は今も残っています。改札前の降客用階段は規模を縮小し、銀座線への乗り換え階段として現役です。この階段は途中に踊り場がありますが、その構造は竣工時の階段のままです。階段を下りた先のアトレ上野の店舗は、地下1階のスペースを転用したものです。
また、公衆地下道は銀座線上野駅コンコースとして利用されており、不忍口側のスロープは7番出入口として現存しています。
上野駅舎正面玄関口の2段構造は、外から見るとすぐに分かります。1階の乗車口は自動車用スロープが撤去され、歩行者専用の入口となりましたが、地下1階の降車口は駅商業施設用の搬入口に転用されています。地下1階には駅構内各所やホームに直結する荷物用通路があったため、搬入した荷物を乗客と交錯することなく店舗に運べるのです。
上野駅は高架ホームの増設や大連絡橋、パンダ橋の整備など、大規模な改良工事を何度も行いながら増え続ける利用者に対応してきました。バブル期には超高層ビルへの建て替えも検討された上野駅ですが、竣工から90年以上が経過した今も駅舎を使い続けられるのは、人流・物流の「立体交差時代」を見据えた先人たちのおかげと言えるでしょう。次に低い天井を見た際は、そんな上野駅の歴史を思い返してみてください。
Writer: 枝久保達也(鉄道ライター・都市交通史研究家)
1982年、埼玉県生まれ。東京地下鉄(東京メトロ)で広報、マーケティング・リサーチ業務などを担当し、2017年に退職。鉄道ジャーナリストとして執筆活動とメディア対応を行う傍ら、都市交通史研究家として首都圏を中心とした鉄道史を研究する。著書『戦時下の地下鉄 新橋駅幻のホームと帝都高速度交通営団』(2021年 青弓社)で第47回交通図書賞歴史部門受賞。Twitter:@semakixxx
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