戦車の砲塔かよ!? 鼻先の機関銃が“グルグル”回る戦闘機なぜ生まれた? でも使えなかったワケ
ミサイルがまだ実用化される前、米海軍では高速化し続ける戦闘機において、ありとあらゆる方向から目標を攻撃できるよう、機首に回転銃座を備えた戦闘機を試作しました。理想的といえそうですが、なぜ実用化されなかったのでしょうか。
斜め後ろ下にも射撃OK どういうこと?
アメリカ海軍は1940年代後半、エマーソン社にこのような機能を備えた可動式銃座を発注。これを受け誕生したのが、エマーソン・エアロX17A回転銃座でした。この銃座は、1950年にF9F-3のシリアルナンバー122562号機に取り付けられます。

X17Aの構造をわかりやすく説明すると、銃座は機首全体に及ぶほどおおきなもので、先端にはレーダーが置かれています。そして、その左右に12.7mm機銃が上下2連銃架で左右に1基ずつ、計4門備えられていました。
左右の2連銃架は、銃座本体に刻まれているスリットに沿って可動し、機首正面方向を0度とした場合、上下それぞれ120度の範囲で指向することができました。つまり、上下合わせると前方240度の範囲で動かすことができ、機首正面を90度とすると、上下ともわずかに後方30度ずつ銃口を向けることができたのです。
この上下の指向に加えて、取り付け部の機首部分から先の銃座全体を、機体の前後軸に対して360度回転させることが可能でした。このような動き方をすることで、進行方向であれば、ほぼ全空域の狙い撃ちを可能にしていました。
なお、銃座の駆動は油圧電動式で銃架は秒速200度、銃座全体は秒速100度のスピードでそれぞれ作動し、パイロットはコンピューター連動のレーダー照準器に敵機を捉えて引金を引くだけで、弾を命中させることができたそうです。
そのため理論上は、X17Aを装備した戦闘機は、上下左右どこでも任意の位置から、偏差を気にせず敵機に対して銃撃を加えることが可能でした。
しかし、X17Aは採用されませんでした。というのも、レーダーなど照準機器も含めた銃座システム全体が重すぎて、とても実用的とは言い難かったからです。
その結果、アメリカ軍では戦闘機の主武装に、一斉発射を行う無誘導のロケット弾を用いるようになっていきます。無誘導なのを数でカバーし、面で制圧しようという考え方です。また、その後、目標に向かって自律飛行する誘導可能なミサイルが実用化されたことで、このような可動式銃座は陽の目を見ないまま姿を消しました。
Writer: 白石 光(戦史研究家)
東京・御茶ノ水生まれ。陸・海・空すべての兵器や戦史を研究しており『PANZER』、『世界の艦船』、『ミリタリークラシックス』、『歴史群像』など軍事雑誌各誌の定期連載を持つほか著書多数。また各種軍事関連映画の公式プログラムへの執筆も数多く手掛ける。『第二次世界大戦映画DVDコレクション』総監修者。かつて観賞魚雑誌編集長や観賞魚専門学院校長も務め、その方面の著書も多数。
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