水面を滑る“巨大な怪物”冷戦時代にソ連が夢見た画期的な超低空を浮く機体の実像

かつてカスピ海では奇妙な機体が実験され、その後長期間にわたり放置されていました。ソビエト連邦で実用化が模索された「エクラノプラン」です。

結局少数運用されたものの…

 当初は小型機で実験が重ねられ、ある程度のデータが集まったところで、1966年、大型の実験機「KM」が開発されました。KMは全長約100m、ペイロードは300t近く、巡航速度は約400km/hに達したといいます。

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展示保存されるために曳航中のルン級(画像:ロシア国防省)

 現在、世界最大の搭載量を誇るAn-225 ムリーヤ(1988年初飛行)でも全長約80m、最大ペイロードは250tですから、KMの大きさや性能がいかに凄かったかがわかります。この積載量を飛行機の速度で届けることができるのですから、物流革命といえるでしょう。ただし、実用化には乗り越えるべき壁がいくつもありました。

 前述の通り、KMは普通の航空機ではなく地面効果翼機です。そのため高高度を飛行することはできず、運用には障害物のない平野や水面が必要です。たとえば、直下を走る車両や艦船がある場合、回避は難しく、専用航路を設ける必要がありました。

 また、動かしてみると速度は船よりは速いものの、高高度を飛ぶ飛行機並みには達せず、搭載量と速度の両方で中途半端な性能に収まってしまいました。墜落事故も起こるなど、運用上の困難もありました。

 しかし急襲作戦などを実施する際の機体としての価値は一定の評価を受け、研究は継続され、全長約58.10 mの中型地面効果翼機が開発され、オルリョーノク級として完成します。少数が上陸支援のための揚陸艦や輸送艦の代替として運用されました。

 1987年には、オルリョーノク級の低空運用性能を活かし、敵艦攻撃のための超低空侵入型対艦ミサイル機の構想が生まれます。この計画を受け、オルリョーノク級をベースにした全長約73mの大型地面効果翼機ルン級エクラノプランが完成しました。

 同機は対艦ミサイル6発を搭載する予定で、最高速度は550km/h。カスピ海のみならず、黒海やバルト海でも脅威となることが期待されました。1980年代、ソ連はエクラノプランの軍事利用を本気で計画し、最終的には約120隻(機)のオルリョーノク級およびルン級を海軍に配備する計画が進められていました。

 しかし、KM時代からの課題である、強度の低い船舶用アルミ合金による機体強度不足は、オルリョーノク級やルン級でも解決されませんでした。オルリョーノク級ではテスト中に尾翼がもげる事故も起きています。

 さらに経済的な事情も重なります。配備には特殊な桟橋など新規インフラが必要で、その費用は莫大でした。

 1980年代後半、ソ連国内の混乱が続き、最終的にソ連は解体。機体はロシア軍に引き継がれましたが、計画は事実上中止されました。一部製造済みのオルリョーノク級、ルン級は出番なく、カスピ海沿岸の海軍基地に配備されたままとなりました。

 特にルン級の1機はカスピ海沿岸で放置され、巨大な8基のエンジンと背中の対艦ミサイル発射装置から「カスピ海の化け物」と呼ばれていました。

 最終的に残ったルン級は、2020年にロシア政府によってパトリオット・パークでの展示を目的として曳航されました。2022年2月のウクライナ侵攻以降、ロシア国内の詳細な状況は不明ですが、ルン級は依然として同地で展示されていると考えられます。

【画像】こういう使い方だったのか! これが、ルン級が出撃するイメージです

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コメント

1件のコメント

  1. 種類も量も、一国で一国の必要とする資源を確保できないのが現代の国家。だから現代の国家は「大量の流通」すなわち「海運」を必要とする。そのためソ連は崩壊し、ロシアは黒海を求めてウクライナに侵略の手を伸ばした。

    これもその悪あがきの一例。資源を運ぶだけで赤字になる大陸国家は、何らかの流通革命を起こさなければ、現代の先進国として存続できない。しかしこの事例のようにその流通革命は起きたことがない。

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