「紅茶なしでは戦えない」はウソ!? 英軍戦車が“電気湯沸かし器”を装備する本当の理由

「イギリス軍戦車には車内で紅茶をいれるための専用ケトルがある」という有名な噂がありますが、果たして本当なのでしょうか。戦車兵の「ティータイム」を守るための装備に隠された、シビアな歴史と公式な理由を探ります。

核戦争時代、NBC環境対策の切り札として導入

 ボイリング・ヴェッセルが制式化されたのは、戦後第1世代MBT(主力戦車)である「センチュリオン」の導入時でした。以降、鉄製からステンレス製の筐体になったり、電源ソケットが改良されたりしながら、2026年現在は「RAK15」と呼ばれる4代目のバージョンになっています。

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戦後に登場したセンチュリオン戦車。核戦争が現実のものだった時代、車外に出ず喫食ができる装備が必要とされた(マガタマ撮影)

 このように、戦車兵の紅茶タイムに欠かせないボイリング・ヴェッセルですが、導入目的は、あくまで「水と携行食糧の加熱器」という建て付けです。「センチュリオン」が登場した冷戦時代の初期には、戦術核や生物兵器、化学兵器の使用が真剣に考えられていました。そのようなNBC兵器の使用環境下となる戦場で、密閉された装甲戦闘車両内で乗員の士気と戦闘力を保つのに、湯沸かし器が不可欠であるというのが、ボイリング・ヴェッセル導入の公式な理由です。

 お湯の煮沸についても、強い蒸気の発生は車両機材の故障の原因となるので、沸騰前に安全装置が働きます。その時の温度が、「たまたま紅茶をいれるのに最適な」摂氏90度前後というだけのことです。

 ちなみに、ボイリング・ヴェッセルはイギリス軍戦闘車両の標準装備として、現在、約2万基が普及しています。そして、この装置が故障している車両は、戦闘準備が整っていないものと見なされ、「任務遂行不可」と判断されます。これは、翻るとそれほど重要な装備として、軍に認識されていることの証左と言えるでしょう。

 ここまで聞くと、陸上自衛隊の戦車ではどうなっているのか気になりますが、日本には制式化された煮沸装置はありません。それどころか、隊員が自腹で購入した登山用バーナーなどを使用しているハナシまで耳にします。最近、取り沙汰される防衛費増額が、戦車の居住性の改善にもつながることを筆者(宮永忠将:戦史研究家/軍事系Youtuber)は願うばかりです。

【意外にコンパクト!】これが「ボイリング・ヴェッセル」です(写真で見る)

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