「一応完全な装置」と自信 国鉄よりスゴかった私鉄の安全装置 国が突き付けた厳しい高機能とは

国鉄でATSが本格的に普及したのは1960年代のことですが、その前身となる装置は私鉄で早くから導入されていました。相次ぐ事故をきっかけに、私鉄では国鉄のものより高性能なATSが開発されていきます。

大事故が全線整備の追い風に

 ところが導入に向けて長期試験を進めていた1962(昭和37)年5月、常磐線で死者157人を出す列車脱線多重衝突事故「三河島事故」が発生してしまいます。赤信号を無視して進んだ貨物列車が脱線し、車両が本線にはみ出したことが事故の発端だったため、国鉄はATS整備を急ぎます。「B形」はATS-Bに改修、それ以外の線区は新開発のATS-Sを設置して、1967(昭和42)年に全線へのATS設置を完了したのでした。

 1965、1966年度の乗客死亡事故がゼロになるなどの成果は出ましたが、やはり車内警報装置を改修したATSは不十分なものでした。ベルが鳴動しても確認スイッチを押してしまえばブレーキはかかりません。運転士が居眠りしているような状況では有効ですが、機械優先のシステムとは言えません。

 国鉄の報告によると、1966(昭和41)年から1975(昭和50)年までの9年間に発生した信号冒進事故90件のうち、実に93%が確認スイッチ押下後に発生していました。例えば1967年8月に新宿駅構内で発生した米軍燃料輸送列車脱線事故は、運転士がスイッチを押した後に適切なブレーキ操作を行わなかったため、別の貨物列車と衝突。タンク車の燃料が引火して爆発する大事故となりました。

 一方、同時期の私鉄を見てみると、法令でATS(ATC)設置が義務付けられた地下鉄、モノレール以外では、東急電鉄が1957(昭和32)年、阪急電鉄が1964(昭和39)年に車内警報装置を導入したように、私鉄にも問題意識はありました。

 しかしATSの整備には至らないまま迎えた1966年、名鉄、京阪、近鉄と相次いで列車衝突事故が続発したことを重く見た運輸省は同年11月、大手私鉄に対して「ATS設置緊急促進要領」を策定。翌1967年1月、運輸省は私鉄ATSの設置基準、構造基準を通達します。

 対象は列車本数が1時間あたり20本、または15本以上で優等列車を運行している路線、列車の最高速度が100km/hを超える路線。全てに該当する重要区域は1967年度、その他区間は1969年度までの整備が指示されました。

【写真】線路でいつも見かける「ATSを構成する機械」

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