「一応完全な装置」と自信 国鉄よりスゴかった私鉄の安全装置 国が突き付けた厳しい高機能とは

国鉄でATSが本格的に普及したのは1960年代のことですが、その前身となる装置は私鉄で早くから導入されていました。相次ぐ事故をきっかけに、私鉄では国鉄のものより高性能なATSが開発されていきます。

国鉄を上回る私鉄ATS

 重要なのは機能です。国鉄のATSは限定的なものでしたが、運輸省はそれをはるかに上回る高機能なATSを私鉄に求めました。必要とされた機能をまとめると以下の通りです。

(1)赤信号の場合は必ず停止しなければならない区間から先に入らないこと

(2)速度照査機能を備え、速度を超えて列車が走行した場合は自動的にブレーキがかかること

(3)速度照査は線区の特性に応じて多段階とし、停止信号に最も近い照査は20km/h以下とすること

(4)ATSは常時投入、自動投入として、ATSを開放したままでは運転できないこと

 これを実現する方法は各社に委ねられたため、大手私鉄は独力または他事業者と共同でATSを開発しました。全てを解説できないので特徴的なもの二つ取り上げましょう。

 東武の「TSP型ATS」は、ATS-Sをベースに多情報化したものです。信号条件や位置情報を地上子から送信し、車上で60km/hまで減速、15km/hまで減速の2種類のパターンを車上で生成。車速がパターンを超えた場合は非常制動がかかり、速度以下になればブレーキが解除されます。後の「ATS-P」に通じる設計思想のシステムと言えるでしょう。

 西武の「SATS」もパターン式です。レールに流れる信号電流を用いて列車位置を検知し、距離に応じて2種類の速度パターンを生成しています。軌道回路を通じて連続的に情報を送れるので常時、速度を監視でき、また信号現示の変化に追従できる高性能な装置です。1967年の業界誌で西武は「一応完全なATC装置といえる」と自信を見せています。

 そんな高機能ATSも、東武は東上線に「T-DATC」を導入し、西武も「CBTC」の導入に着手したように、いよいよ世代交代の時期を迎えています。それは言い換えれば、60年以上前に誕生した私鉄ATSがいかに先進的なものだったかを示しているのです。

 一方、致命的欠陥を抱える国鉄のATSは、導入直後から機能向上が検討されたにもかかわらず、長くそのまま使われました。ATS-Sに即時機能を付加した「ATS-SN」、パターン式の「ATS-Pn」が導入されたのは民営化後のことです。私鉄と同水準のATSがあれば防げた事故は多いだけに、悔やまれる判断です。

【写真】線路でいつも見かける「ATSを構成する機械」

Writer:

1982年、埼玉県生まれ。東京地下鉄(東京メトロ)で広報、マーケティング・リサーチ業務などを担当し、2017年に退職。鉄道ジャーナリストとして執筆活動とメディア対応を行う傍ら、都市交通史研究家として首都圏を中心とした鉄道史を研究する。著書『戦時下の地下鉄 新橋駅幻のホームと帝都高速度交通営団』(2021年 青弓社)で第47回交通図書賞歴史部門受賞。Twitter:@semakixxx

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コメント

1件のコメント

  1. 国鉄の導入が遅れたのはGHQのほかに、国会の議決を得られなかったことも大きいでしょう。

    需要が逼迫していた国鉄は、乗車効率300%に達するような通勤ラッシュ対策と幹線の輸送力増強に追われていました。通勤ラッシュ対策には首都圏五方面作戦(東海道・中央・東北・常磐・総武線の複々線化)、幹線の輸送力増強では複線化を推進しましたが。東北本線の全線複線化などは完了しましたが日本海縦貫線は部分的な複線区間贈にとどまっています。

    運賃値上げは毎回、時期を遅らせ、値上げ幅を削られてしまい、ATCなどの開発に必要な予算をつけられずペースを落とさざるを得なかった。

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