「白いレール」なぜ急増? 6100億円投資に2000人の手作業剥がし…欧州で続く熱波との闘い
記録的な熱波に襲われている欧州では、鉄道インフラも悲鳴を上げています。温暖化の救世主とされる鉄道が、実は酷暑に弱いという皮肉な現実に対し、各国はどのような対策を講じているのでしょうか。
レールを白く塗って暑さ対策
そのような英国でも猛暑日が増え、2024年には熱波由来の鉄道遅延が延べ35万分も発生したそうです(英国の鉄道路線の大半を管理するネットワーク・レイルによる)。熱波は一時的な現象ではなくなったと覚悟を決めた同社は2022年、「酷暑に対して後手に回っていた」と反省の弁を述べ、英国気象庁の元主任科学者などで構成される「酷暑特別委員会(Extreme Heat Task Force)」を立ち上げました。
また、2030年までに28億ポンド(約6100億円)を投じて、様々な暑さ対策を講じることを発表しています。
同社によると、熱に脆弱な古い架線を新しい素材に置き換えたり、架線の膨張具合に応じて架線の高さを自動調整するシステムを導入したり、また、一部の区間では、熱に強いコンクリートの上にレールを敷く方式を導入していくそうです。従来の枕木と砂利の上にレールを敷く方式よりも高コストですが、これは、最高気温40℃超えが珍しくないドバイの地下鉄でも採用されている方式です。
このような長期的・抜本的なインフラ更新計画以外に、低予算で即効性がある対策も講じられています。レールを白く塗って太陽の熱を吸収しにくくさせるのです。太陽で熱せられたレールは外気温よりも20℃ほど熱くなりますが、白く塗ると表面温度が5~10℃も下がるといいます。
こうした白塗り対策は、イタリアから始まったというのが定説のようですが、ドイツやスイス、ブラジルなどでも広がりつつあります。ネットワーク・レイルも2025年春には1500リットルもの白いペンキを使ったそうです。温暖化により、「レールは白い」というのが世界の常識になる日も近いかもしれません。
ネットワーク・レイルは、線路沿いに設置された信号機器にも目を向けています。信号設備を収納した金属製キャビネットの内部は、直射日光の下で温度が70℃を超えることがあり、電子機器の故障によって信号トラブルや列車遅延につながっています。
この問題を解決するために同社は、電源やファンを使わず自然に放熱する新しい冷却システムを共同開発したそうです。キャビネットの屋根に液体が封入されている冷却システムを乗せて固定するだけで、その液体が蒸発・凝縮を繰り返す際の気化熱を利用してキャビネット内部の最高温度を21%以上低減させることが可能といいます。
キャビネット自体を加工する必要がない上に、作業員2人であたれば設置に1時間もかかりません。おまけに、設置後のメンテナンスはほぼ不要といいますから、北米や中東からの問い合わせも殺到しているそうです。
ロンドンを起点に南東部のケント州やイースト・サセックス州を結ぶ英国の鉄道運行会社・サウスイースタン(Southeastern)で2025年に実証導入が始まり、高リスク地点へ順次展開されています。
温暖化の救世主と注目される鉄道ですから、温暖化に負けないシステムの開発が求められています。
Writer: 赤川薫(アーティスト・鉄道ジャーナリスト)
アーティストとして米CNN、英The Guardian、独Deutsche Welle、英BBC Radioなどで紹介・掲載される一方、鉄道ジャーナリストとして日本のみならず英国の鉄道雑誌にも執筆。欧州各国、特に英国の鉄道界に広い人脈を持つ。慶応義塾大学文学部卒業後、ロンドン大学SOAS修士号。





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