陸自の「走るお釜」、「野外炊具1号」とは お腹も心も満たせる有事の最重要装備!?

調理に必要なのは長年のカン?

 食事を作るために、普通科(歩兵)や機甲科(戦車)、特科(大砲)などの戦う部隊であっても必ず、「野外炊具1号」が配備されています。日本中どこの部隊へ行っても見ることができます。

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野外炊具1号に搭載された、野菜を裁断する大型カッター。玉のキャベツも見る見るうちに千切りへ(菊池雅之撮影)。

 特徴を簡単に説明しますと、タイヤの上に6つのお釜と、野菜を裁断する大型カッター、皮むき器が装備された移動式キッチンです。

 6つのお釜では、炊く、揚げる、蒸す、といった調理が可能です。これ1台あれば、ごはん、汁もの、おかずの1セット約200人ぶんが作れます。災害派遣などで、「とにかく急いでおにぎりだけでも配らなければ」ということならば、6つの釜すべてでご飯を炊くことで、最大600名ぶんはまかなえるともいわれています。

 ただし、難点なのが、取り扱いが恐ろしく難しいことです。まず、種火を投入し、ガソリンと灯油、空気の量を調整しながら、火力を調整します。火の色を見ながら温度を予測し、ダイヤルをひねっていきます。これがまず初心者には扱えません。

 ごはんが炊けるまでの時間は、火力だけでなく、その日の気温や天候にも左右されてしまうので、日によって変わります。そこで、筆者(菊池雅之:軍事フォトジャーナリスト)が、「目安はどうしているのですか?」と聞くと、「ふたを開けることができないので、匂いと長年のカンで判断します」と、21世紀の調理とは思えない回答を頂きました。

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野外炊具1号の火の扱いは、初心者にはまず無理という。
燃料などの火力調節ダイヤル。目盛りはない。
「22式改」の自動着火、火力制御装置。タイマーもついている。

 さすがにこれではいけないと、2000(平成12)年度に「野外炊具1号改」が誕生しました。大きな変更点が、自動点火装置とした点です。我々が家庭で使うコンロのように、レバーをひねると、プラグが発火して火をつけてくれます。火力調整も1個のレバーを操作するだけです。

 調理に水が必要となると、近くに桶を用意し、そこに水をためておき、その都度汲みに行っていました。それが「改」からは、蛇口が配置され、そこからホースを伸ばして、直接お釜に水を注ぐことができるようになりました。

 2010(平成22)年に入ると、自動点火装置に加え、コンロを制御するタイマーなどを有した「野外炊具1号(22式改)」という新型が登場、大量調理がますます簡単になりました。まだ配備部隊は限られているレア装備ですが、今後増えていくことでしょう。

 なお、航空自衛隊では、「トレーラー1t炊事車」という装備を保有しています。これは、「野外炊具1号」と同じものです。

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コメント

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1件のコメント

  1. 自衛隊は自己完結型の組織と言っても後方支援体制が貧弱なのは明らかです。東日本大震災では招集された予備自衛官の給与支払いが大幅に遅延したとか。

    諸問題の解決に向けた地味な努力が必要だと思います。