単線なのにトンネルは複線 長野・篠ノ井線のスピードアップは実現するか(写真41枚)

輸送力強化と災害対策を同時に実施

 戦後、篠ノ井線を改良して輸送力を強化する計画が決まりました。まず1966(昭和41)年までに明科~田沢間と松本~塩尻間が複線化され、1973(昭和48)年には全線の電化も完了。それから1年後の1974(昭和49)年、西条~明科間の複線化工事が始まりました。

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西条~明科間の第1白坂トンネル。トンネルの手前も複線分のスペースが確保されている(2018年5月6日、草町義和撮影)。

 このとき、従来のルートのまま複線化するのではなく、別のルートで新たに複線用の第1白坂トンネル、第2白坂トンネル、第3白坂トンネルを建設することになりました。自然災害に見舞われて頻繁に運転を見合わせるようなら、複線化で輸送力を強化しても意味がありません。そこで、地滑り地帯から離れたトンネル中心のルートで整備することにしたのです。

 しかし、工事は3本中2本のトンネルが貫通した段階で、国鉄の経営悪化に伴い中断。その後、とりあえず単線の線路を敷いて使うことが決まって工事が再開され、分割民営化後の1988(昭和63)年に完成しました。これにより、西条~明科間は旧ルートより約700m短くなり、列車の所要時間も特急で2分短縮。地滑り災害に巻き込まれることもなくなりました。

 ただ、複線用のトンネルは完成したものの、複線化自体はまだ実現していません。複線化されれば時間短縮も期待できますが、JR東日本は「費用面から複線化は難しい」(2016年12月9日付け信濃毎日新聞朝刊)と考えており、実現するかどうかは分かりません。

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旧ルートの敷地は一部が遊歩道に。電柱やトンネル、標識などが残されている(2018年5月6日、草町義和撮影)。

 ちなみに、新ルートへの切り替えにより放棄された旧ルートのうち、安曇野市内の約6kmの部分は遊歩道として再整備されました。レールや枕木は撤去されましたが、電化の際に設置された電柱はいまも残っており、途中にあるレンガ造りのトンネルを歩くことができます。

【了】

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Writer: 草町義和(鉄道ニュースサイト記者)

鉄道誌の編集やウェブサイト制作業を経て鉄道ライターに。2020年から鉄道ニュースサイト『鉄道プレスネット』所属記者。おもな研究分野は廃線や未成線、鉄道新線の建設や路線計画。鉄道誌『鉄道ジャーナル』(成美堂出版)などに寄稿。おもな著書に『鉄道計画は変わる。』(交通新聞社)など。

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コメント

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7件のコメント

  1. 複線化用地をそのまま持たせた方が金かかるから、複線化した方が良いと思う。
    そうすれば長野〜名古屋・豊橋の利便性が高くなるし、松本駅〜長野駅の本数も増やせる。
    長野は道路事情が良くないし、有料道路が多いから有効だと思うね。

  2. 東京圏から長野に行くには新幹線で行けばいい。名古屋圏から長野に行くなら篠ノ井線が不可欠。JR東にしてみればJR東海にも金銭的負担をしてほしい案件ではないでしょうか。

    • いいえ、神奈川県から長野行く際には新幹線はすごく不便だし高いです。
      北陸新幹線で得したのは埼玉と東京だけで神奈川県から金沢に行く際には名古屋経由の方が早くて便利な位です。
      神奈川県から長野行く際には横浜線や南武線から立川や八王子に出た方が楽な場合が多いです。
      ぶっちゃけ、神奈川県に北陸新幹線の恩恵は皆無に近いです。

    • 金沢に行くのに名古屋経由が早いのは神奈川県西部の話ですね。小田原市民ならひかり号使って名古屋か米原でしらさぎかサンダーバードに乗り継げば割引もききますね。
      (ただし名古屋発しらさぎの本数少ないですが)

      ただ、横浜・川崎あたりなら東京駅まで概ね1時間以内で行けますからどう頑張っても北陸新幹線経由のほうが早いはずです。
      値段が上がったから神奈川県民に恩恵は皆無というならまだわかりますけどね。

  3. JR東単独で複線化事業を進めることはまず困難だろうから、長野県とJR東・海で複線化事業と線路設備保有を行う第三セクターを設立するやり方で実施するしかないだろう。

    ただ、JR東にとっちゃ現状の塩尻-松本が複線になっていりゃ十分な話だし、県としても東京に出るのは北陸新幹線で十分充たせており長野-松本間のアクセスも長野自動車道があるから篠ノ井線の複線化はそんなに重要性高くない。
    複線化の恩恵がいちばん大きいのはJR海だろうが自社路線でないうえにリニア事業も抱える中でこの件に積極的関与する気があるとは思えない(もしかしたら、リニアが開通すると「しなの」は長野から中津川か飯田新駅までのアクセス新特急に立て替えられる可能性も考えられる)。

    高速道路網が整備された現状で敢えて篠ノ井線のこの区間を複線化しなければならない理由もない。
    それに、仮に複線化しても西条と明科のわずか1駅間だけの話で、全区間の6割は単線のままなのだから大した輸送力増強にならない。

    そういう判断で見送られたのだろうから、おそらく今後もそのままだろう。

  4. なぜ… 西条~明科 と、起点側でなく終点側の駅名を先に書くのだろう………

    それとたしか…、複線区間が塩尻~松本とあるが、松本~田沢のうち途中までは複線ではなかったか ?…

    • 松本-田沢 間は、間に信号場がありますが、その前後はどちら側も単線です。
      (おまけで、松本駅側のわずかな距離で、大糸線と単線並列になっています。)

      あと、明科-西条 間は地元感覚からも左記の順で区間を示すほうが一般的な感じはありますね-。