航空会社の「マイレージサービス戦争」過熱 戦場は空からウェブへ 利用者は何を得る?

今後は「マイルでどんどん飛行機に乗って」?

 しかしエアラインにとって「マイルを売る」ビジネスに問題がないわけではありません。それは、付与されたマイルが最終的に消化、消費されることで、エアラインの費用増につながっていくからです。

 現在の会計処理の手法は各社からつまびらかにされていませんが、基本的にマイルの消化は自社便の空席利用となり、エアラインに特段の変動費が発生しないことからスタートしているため、航空券以外の商品との交換にかかる仕入れ原価や提携会社サービス利用時のコストのみを各社の設定する比率で(会計士了承のうえで)引き当てるのが通常の方法と見られています。

 しかしながら、2021年4月には国際財務報告基準(IFRS)が定める収益認識基準が日本の全業界に対して強制適用されることになっています。その基準では、売上を商品売上と販売にかかる費用(マイルやポイントが将来もたらす売上減)に分離し、会計上純粋な商品売上しか計上できません。つまり10万円の航空券を販売し、それに1万円相当のマイルを付与した場合、決算期内にマイルが消費されなければ9万円の売上しか計上できなくなるのです。そして利用者がマイルを使って無償航空券で搭乗するなどした時点で、やっと残り1万円の売上が計上されます。

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ANAが2019年5月にホノルル線へ投入したエアバスの超大型機A380「フライングホヌ」(2019年4月、恵 知仁撮影)。

 航空会社にすれば、収益認識基準の適用でキャッシュフローが変わるわけではないので、これがただちに事業経営へ悪影響を及ぼすことはないと思われますが、制度変更の端境期では財務指標の見方(比較分析)が複雑になりますし、何よりきちんと売り上げた金額を全て収益計上するためには、マイルの消化を加速させることが必要になってきます。その意味では、2019年5月にANAのホノルル線へ、従来機よりも座席数を大幅に増やしたエアバスの超大型機A380がマイル消化促進の意味も持たせながら投入されたといわれるのは、時宜にかなった措置なのかもしれません。従来、ANA全体でマイル特典による航空券の席が取りづらいといわれていました。

 しかしホノルル線だけでマイルが消化されるわけではありませんから、幅広くマイル消化を推進する必要が出てくると思われ、ここ数年ANAがとってきた需給調整戦略(減価償却の終わった航空機を余分に保有しておきオフピーク期に小型機を飛ばすことで利用率を上げると同時に、座席が取りにくい環境を保つことで運賃を高めに維持して収益性を高める)が見直しを余儀無くされることも考えられます。利用者にとっては歓迎ですが、エアラインの事業戦略にマイル制度の変更が、今後さらに何らかの変化をもたらす可能性があります。

【了】

【写真】航空会社の「上級客向け」豪華ラウンジ内部

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Writer: 武藤康史(航空ビジネスアドバイザー)

航空ビジネスアドバイザー。大手エアラインから独立してスターフライヤーを創業。30年以上の航空会社経験をもとに、国内外で航空関係のビジネス創造を手がける。「航空業界を経営目線で理解してもらうべく、航空ビジネスのコメンテーターとしても活躍中。

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