全国初「県内バス・電車無料の日」なぜ実施? 他社の減収も負担 バス会社の壮大な挑戦

「昭和の再現」ではないバスターミナル再整備

 中心市街地の衰退と並行して、自家用車の普及も進みました。「一家に1台」から「ひとりに1台」の時代を迎え、地方では「マイカー通勤」が当たり前となりました。それにともない路線バスの輸送人員は全国的に減少し、2011(平成23)年には1970年代と比べて約40%の水準である年間約41億人まで落ち込みました。

 他方、郊外へ目を向ければ、都市部から虫食い状に無秩序な開発が進み、結果として学校や上下水道といったインフラ整備に多額の費用が使われ、その維持の効率も悪くなっています。また、過度に自動車へ依存する生活も、地球温暖化への影響など多くの問題をはらんでいます。

 そこで、国全体で人口が増加から減少に転じたいま、中心市街地の再生を図るとともに、都市機能をそこへ集約する「コンパクトシティ」という政策が全国の都市で進められています。人口を中心市街地に再配置することで、行政コストの低下や、自家用車から公共交通への転換を図るものです。

 サクラマチを「バスターミナル併設の商業施設」という形だけで見れば、旧・熊本交通センターに代表される「昭和の中心市街地」の再現ともとれます。しかし、桜町再開発事業の全体に視野を広げると、大型ホールなどの文化施設や住宅(分譲マンション)、保育所、庭園など商用以外の施設に相当な床面積を割いています。ショッピングモールと自家用車に象徴される「郊外の時代」を経て、都市生活の感度の高さと、職住接近や地域コミュニティなど住みやすさとが両立する、次の時代における地方都市のあり方を模索しているといえるでしょう。

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「SAKURA MACHI Kumamoto」完成予想イメージ(画像:九州産業交通ホールディングス)。

 九州産交ホールディングスのグループ広報担当、和田直人さんは、自社が運営するサクラマチに限らず「熊本の中心市街地全体で賑わいと雇用を創出すること、そしてサクラマチを拠点として県内外の回遊性を向上させることこそ再開発事業のゴール」だと話します。「県内バス・電車無料の日」は、その1歩目の試みだそうです。

 人口減少時代を迎え、日本の諸都市は人口を維持するため魅力を競い合う時代に入ったといえます。これまでは地方から大都市への「上りの人口移動」が中心でした。しかしいまや、会社以外の離れた場所で働くテレワークに象徴される働き方の変化や、親族の介護にともなうUターン、Iターンの増加などにより、大都市から地方へ移住する「下りの人口移動」も見られます。そうしたなかで地方都市の魅力を支えるため、地元の路線バス事業者は何ができるか。サクラマチの開業と「県内バス・電車無料の日」は、全国に先駆けた挑戦だといえるでしょう。

【了】

【表】計4099便! 熊本「バス・電車1日無料」対象バス一覧

Writer: 成定竜一(高速バスマーケティング研究所代表)

1972年兵庫県生まれ。早大商卒。楽天バスサービス取締役などを経て2011年、高速バスマーケティング研究所設立。全国のバス会社にコンサルティングを実施。国土交通省「バス事業のあり方検討会」委員など歴任。新聞、テレビなどでコメント多数。

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