「不許可」覆した自衛隊初の災害派遣 現場からの直訴 国を動かす

災害派遣は試行錯誤の繰り返し

 とはいえ、当時まだ「災害派遣」という制度が確立していなかったため、小月駐屯部隊は警察予備隊令第3条1項「警察予備隊は、治安維持のため特別の必要がある場合において、内閣総理大臣の命を受け行動するものとする」という規定に基づく首相命令によって活動しました。

 これを教訓として、1952(昭和27)年3月3日に初めて災害派遣に関する規定が作られます。これに基づき、3月4日にさっそく十勝沖地震に対する災害出動として北海道の帯広部隊が出動したほか、4月17日には鳥取大火への対応として鳥取市に対して米子、姫路、千僧など複数の駐屯地から大規模な災害派遣が行われました。

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1991年の雲仙普賢岳噴火災害において現地で活動する陸上自衛隊員と60式装甲車(画像:陸上自衛隊)。

 同年8月1日に警察予備隊を改編して誕生した保安庁および保安隊では、新たに作られた保安庁法のなかに「災害派遣」が明記されたため、災害派遣活動もおもな任務のひとつとして規定されました。

 さらに1954(昭和29)年7月1日に防衛庁(当時)および自衛隊が発足すると、自衛隊法にも「災害派遣」が盛り込まれ、そののち幾多の改正を経て、現在では「要請派遣」「自主派遣」「近傍派遣」が可能になっています。

 なお、前述した「ルース台風」の災害派遣よりも前に、福知山駐屯部隊(京都府福知山市)や善通寺駐屯部隊(香川県善通寺市)が、それぞれ現地部隊長の現場判断という形で派遣された例はありました。しかし、これらは独自判断による応急措置という位置付けで、首相が出した命令によるものではないため、正式な派遣は1951(昭和26)年10月の小月駐屯部隊(普通科第11連隊)が初として記録されています。

 2020年も日本各地で自衛隊に対して災害派遣が要請されています。その端緒となると、実は69年前の警察予備隊時代にさかのぼるのです。

※参考文献:自衛隊十年史(防衛庁)、波乱の半世紀―陸上自衛隊の50年(朝雲新聞社)

【了】

【写真】過去陸上自衛隊が活動してきた代表的な災害派遣

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Writer: 柘植優介(乗りものライター)

子供のころから乗り物全般が好きで、車やバイクはもちろんのこと、鉄道や船、飛行機、はたまたロケットにいたるまですべてを愛す。とうぜんミリタリーも大好き。一時は自転車やランニングシューズにもはまっていた。

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