戦艦「三笠」がつなぐ日本とイギリス防衛関連企業BAEとの意外と長くて深い縁とは?
ヴィッカースのその後とBAEシステムズのこれまで
「三笠」を建造したヴィッカース社は1999(平成11)年にロールス・ロイスに買収されるまで企業として存続し、2004(平成16)年までは合併した軍用車両メーカーのアルヴィス社との合弁企業「アルヴィス・ヴィッカース」としてその名をとどめていました。その後2005(平成17)年にBAEシステムズに買収され、同社の子会社と合併したことで、ヴィッカースの名前は完全に消滅しました。
名門ヴィッカースのブランドに終止符を打ったBAEシステムズですが、それから数年後、ある商戦でヴィッカースの「名」を最大限に利用することとなります。その商戦は、航空自衛隊のF-4EJ改戦闘機の後継機を選定する「第4次F-X」です。
BAEシステムズは第4次F-Xに、同社が共同開発と製造に携わるユーロファイター「タイフーン」を提案していましたが、日本での実績と知名度の面で、F-35Aを提案していたロッキード・マーチン、F/A-18E/F「スーパーホーネット」を提案していたボーイングの両社に一歩及んでいない感がありました。そこでBAEシステムズは、同社の一部となっていたヴィッカースと日本との関係に着目し、「三笠」を前面に押し出して、「タイフーン」のプロモーション活動を展開しました。
筆者は2010年7月にイギリスで行われたユーロファイター「タイフーン」のメディアツアーに参加した際、BAEシステムズのイギリス人スタッフに、「三笠」を前面に押し出すプロモーション活動は戦略なのかと尋ねたことがあります。
筆者の質問を受けたスタッフの答えは「いまはわが社が所有しているバロー=イン=ファーネスの造船所には、『三笠』を日本へ回航した際、同艦に乗って日本に行ったヴィッカースの社員の孫が働いている。我々は歴史と伝統を重んじる企業なのだ」というものでした。後から考えてみると「たまたまなのでは?」という話なのですが、当時の筆者はイギリス人から「歴史と伝統」という言葉を聞かされて、妙に納得してしまったものです。
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