なぜ多い? 駅弁「とりめし」「かしわめし」 九州から全国へ 100年ベストセラーも
「パリ出店」も 日本のみならず世界に広がる
2018年には、一度は幻の味となった博多駅「かしわめし弁当」の復活が話題を呼びました。これは2010(平成22)に廃業した駅弁業者「寿軒」の末永直行会長(2019年死去)から申し出を受けた広島駅の「ひろしま駅弁」が、福岡市に子会社を設立してまで手がけたもので、古くからの絆が伝統の駅弁を復活に導いたと言えるでしょう。
九州以外で見ると、福岡と距離的に近い山口線 津和野駅(島根県)の「かしわめし弁当」が九州と似たスタイルを踏襲しています。群馬の高崎駅「鶏めし弁当」も、九州出身の創業者が開発しただけあって一見似ていますが、卵がない代わりに肉が多めで、しっかりした味付けや添えられた赤玉こんにゃくなど、上州の地ならではのアレンジが見られます。
ブランド鶏「名古屋コーチン」の産地である名古屋でも、さまざまな鶏肉を使った駅弁が展開されていますが、そのなかでも名古屋駅で販売されている松浦商店の「とり御飯」(現在は「天下とり御飯」)は、小松左京氏のSF小説「首都消失」の冒頭にも登場したことで知られています。作者も大好物だったというこの駅弁をいただく前に、作品を一読して「このあと首都圏と連絡が取れなくなるのか」と感じながら作中の世界に入るのも良いかもしれません。
他に代表的な「とりめし」駅弁としては、新宿駅「とりめし弁当」(かつて販売されていた「新宿田中屋」の復刻版)や、中央本線 塩尻駅(長野県)の「とりめし梓」(多量の野沢菜入り)などが挙げられます。また、オーソドックスな3色タイプとは異なるものの、ごぼうなどの根菜を炊き込んだ上に鶏肉の煮込みを乗せた奥羽本線 大館駅(秋田県)の「鶏めし弁当」を手掛ける花膳は、2019年、フランス・パリに路面店を出店したことでも話題を呼びました。
それぞれ業者ごとに工夫がなされた「とりめし」「かしわめし」駅弁は、地域の好みによって違う味の濃さ・調理法など、多様性を持つ食の文化のバロメーターと言えるかもしれません。出先の駅で見かけた際は、それぞれの個性を楽しむのも良いのではないでしょうか。
【了】
Writer: 宮武和多哉(旅行・乗り物ライター)
香川県出身。鉄道・バス・駅弁など観察対象は多岐にわたり、レンタサイクルなどの二次交通や徒歩で街をまわって交通事情を探る。路線バスで日本縦断経験あり、通算1600系統に乗車、駅弁は2000食強を実食。ご当地料理を家庭に取り入れる「再現料理人」としてテレビ番組で国民的アイドルに料理を提供したことも。著書「全国“オンリーワン”路線バスの旅」など。
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