実は自沈!? ドイツ戦艦「ビスマルク」鉄スクラップの山となっても浮いていた強さのヒミツ

1隻対4隻の死闘の末

 このように、ドイツの戦艦および巡洋戦艦の防御力には、同海軍ならではの優れたダメージ・コントロール技術とともに、旧式ながら全体防御方式のメリットがあったのは事実です。

 では古いとはいえ、そのようなドイツ海軍流の「沈みにくい設計」、すなわちバイエルン級譲りの全体防御方式を受け継いだ戦艦「ビスマルク」の、第2次世界大戦における戦例はどうだったのでしょう。

 1941(昭和16)年5月27日、「ビスマルク」は、単艦での行動中にイギリス戦艦「ロドニー」と「キング・ジョージV世」、重巡洋艦「ノーフォーク」および「ドーセットシャー」に捕捉され、たった1隻で戦艦2隻、重巡2隻と死闘を繰り広げました。

 敵艦の集中砲火を受け、「ビスマルク」は主砲塔や副砲塔が被弾で使用不能となったほか、艦橋をふくむ上部構造物にも多数の弾を受け、戦闘能力を喪失しました。しかし、きわめて簡単な理屈「お風呂に浮かせた洗面器は水面下に孔を開けて水を入れない限り沈まない」のたとえのごとく、水面下の損傷がわずかだった同艦は沈みません。

 そこでイギリス側は、被弾が重なって“浮かぶスクラップの山”と化した「ビスマルク」に、魚雷攻撃を加えてとどめを刺したと発表しました。これに対して、主にドイツ側の一部では、「ビスマルク」は艦底に備えられた自沈弁(キングストン弁)を開放して自沈した、という主張もされています。

 真実は不明であるものの、そこまでやられても沈まなかった「ビスマルク」は、たとえ設計が「古かった」としても「使えた」戦艦であったことは間違いないのではないでしょうか。

 このように「ビスマルク」を見てみると、前述のとおり兵器はスペックなど二の次で、最も重要なのは「実戦で使えたか使えなかったか」だということだといえるのです。

 なお、昨今の研究では、イギリス側が主張する「とどめの雷撃」とドイツ側が主張する「自沈弁の開放」、この両方がなされたという説が有力のようです。

【了】

【まさしく鋼鉄の浮城】連装38cm砲塔が特徴の戦艦「ビスマルク」

Writer: 白石 光(戦史研究家)

東京・御茶ノ水生まれ。陸・海・空すべての兵器や戦史を研究しており『PANZER』、『世界の艦船』、『ミリタリークラシックス』、『歴史群像』など軍事雑誌各誌の定期連載を持つほか著書多数。また各種軍事関連映画の公式プログラムへの執筆も数多く手掛ける。『第二次世界大戦映画DVDコレクション』総監修者。かつて観賞魚雑誌編集長や観賞魚専門学院校長も務め、その方面の著書も多数。

最新記事

コメント

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleのプライバシーポリシー利用規約が適用されます。

1件のコメント

  1. 記事で指摘あるように第一次大戦のバイエルン級そのままのビスマルクは明白な旧式、駄目戦艦です。その防御は石炭庫がある事前提で、石油ボイラー化したビスマルクの防御はバイエルンに劣ります。そしてジェットランド沖海戦で、沈まないだけの戦艦は意味が無い事が証明されてます。敵弾に100発耐えるけど二発で戦闘力を失う戦艦より、10発で沈むけど8発喰らうまで戦闘力を維持する戦艦では後者は前者の4倍の継戦能力を持つと判断されます。またビスマルクの装甲は旧式故に近距離射撃防御に特化した側面装甲優先の設計の為、後の戦艦砲戦の大半を占める遠距離砲戦、航空爆弾防御を担う甲板防御力が極端に低い。英海軍艦載機の性能の低さに助けられ目立って居ませんが、日米の艦上爆撃機に狙われたらひとたまりも有りません。旧式は所詮旧式、最新鋭ド旧式戦艦の渾名は伊達では有りません。その他、小口径長砲身故の遠距離打撃力の致命的不足、水雷防御の不足、対空砲の照準、指揮用の高射装置の不具合、戦力化を急ぐあまりの機関不調の未解決、通常航海時の砲塔基部からの浸水による機関室浸水等、見掛け倒しの駄目戦艦です。