「安いスポーツカー」が今こそ必要な理由 各社しのぎを削った時代は何が違った?

スポーツカーは「絵に描いた餅」ではダメだ!

 しかし、平成の「失われた数十年」の不況期に、数多く売れないスポーツカーは、どんどん消えていきました。昭和にスポーツカーを知っていた年齢層の人間は、「寂しいな」程度。でも、平成になって初めてクルマに乗るようになった若者は、スポーツカーを知るチャンスを失いました。あるのは、高額で手の届かないスポーツカーばかりで、まさに「絵にかいた餅」。しかも、食べたことのない餅です。美味しさを知りませんから、欲しいとも思わないでしょう。

 ですから、クルマに興味をなくす人が増えても仕方ありません。そして、クルマに興味を持てない人が増えていけば、それだけ自動車メーカーの存在感は低下します。「安ければいい」と、どんどんとコモディティ化してゆき、儲けも少なくなります。スポーツカーを切り捨てることで、自動車メーカーは、自分で自分の首を絞めてきたようなものです。

 しかし、今からでも遅くはありません。トヨタも、それに気づいたからこそ、「86」や「スープラ」を復活させたのです。若い人に「クルマに興味のない」割合が増えたのは確かですが、いまだに「クルマが好き」という若者も存在します。そうした人たちに手の届く、安いスポーツカーを増やすべきでしょう。

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新型BRZ(画像:スバル)。

 それに、スポーツカーは、ブランドを高める大きな力になります。かつて、「シルビア」に乗っていた人は、やはり日産に良いイメージを持っているはずです。同じように、「セリカ」や「スープラ」で楽しい青春を送った人は、トヨタに好意を抱いているはず。クルマが進化・熟成してゆくと、技術が拮抗して、メーカー間の差が縮まります。そこで重要になるのがブランド力。そして、それを高めるのがスポーツカーというわけです。

 今でも、スポーツカーは注目の高い存在です。日産の「Z」や、スバル「BRZ」の発表では、数多くのネット記事が掲載され、数多くの人が記事を読んだはずです。自動車メーカーは、その高い関心に応じる、手の届く価格のスポーツカーを提供すべきです。これから1台でも多くのスポーツカーが登場することを願うばかりです。

【了】

【写真】現在&懐かし「安いスポーツカー」の数々(31枚)

Writer: 鈴木ケンイチ(モータージャーナリスト)

日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。自動車専門誌やウェブ媒体にて新車レポートやエンジニア・インタビューなどを広く執筆。中国をはじめ、アジア各地のモーターショー取材を数多くこなしている。1966年生まれ。

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