歩兵1人でも戦車を撃破! ぶ厚い装甲貫く成形炸薬弾の仕組み 世紀の発見“メタルジェット”

成形炸薬弾の弱点

 しかし一方で、成形炸薬弾にはいくつかの弱点もありました。最大の弱点は、装甲板と正対した位置で起爆しなければ、所定の装甲貫徹力が発揮されないという点です。たとえば、命中した箇所に突起物があった場合、装甲板とぴったり正対できないことから、装甲貫徹力が大きく減衰し、貫けなくなることもありました。

 これを逆手に取って、第2次世界大戦中期以降のドイツ戦車では、薄い装甲板で造られた「シュルツェン」と呼ばれるものや、金網状の「トーマ・シールド」といった補助装甲を、戦車の車体や砲塔に隙間を空けて取り付けるようになります。

 あえて車体や砲塔と離してあることで、これらに成形炸薬弾が命中しても、メタルジェットがそれら補助装甲と車体や砲塔との間で放散してしまい、本体の装甲まで到達せず、撃破を免れられるという次第です。

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第2次大戦中のドイツIII号突撃砲。車体側面に「シュルツェン」という薄い補助装甲がアームで車体と離して取り付けられている。この隙間により成形炸薬弾の威力が減衰する(柘植優介撮影)。

 もうひとつの成形炸薬弾の弱点は、砲身内径に施されたらせん状の溝(ライフリング)によってスピンがかけられると、鋭く細いメタルジェットにも遠心力が加わって太めに広がってしまい、そのせいで装甲貫徹力が低下してしまうことです。このライフリングがあることで砲弾は回転し、命中精度が増すのですが、成形炸薬弾にとってはデメリットにもなります。このような事情から、成形炸薬弾はバズーカ砲など、弾体を回転させずに撃ち出す兵器の方が向いているといえます。

 成形炸薬弾は、現在も対戦車ミサイルや、肩撃ち式ロケット弾発射機のような個人携行対戦車兵器の弾頭に用いられています。炸薬や金属内張りの改良が進み、最新の成型炸薬弾は、第2次世界大戦中のものと同じ炸薬量なら2倍から3倍ほど厚い装甲板であっても穴を開けられるほど強力になっているといわれます。さらに補助装甲対策として、同弾を前後にふたつ、あるいは三つ重ねた、いわゆるタンデム弾頭と呼ばれる構造のものまで生まれています。

 第2次世界大戦中に出現した成形炸薬弾ですが、費用対効果(コストパフォーマンス)に優れることから、今後も対戦車兵器の有力な弾種のひとつとして、使われ続けることでしょう。

【了】

【写真】陸上自衛隊の対戦車ミサイル&格子状装甲を取り付けた装甲車

Writer: 白石 光(戦史研究家)

東京・御茶ノ水生まれ。陸・海・空すべての兵器や戦史を研究しており『PANZER』、『世界の艦船』、『ミリタリークラシックス』、『歴史群像』など軍事雑誌各誌の定期連載を持つほか著書多数。また各種軍事関連映画の公式プログラムへの執筆も数多く手掛ける。『第二次世界大戦映画DVDコレクション』総監修者。かつて観賞魚雑誌編集長や観賞魚専門学院校長も務め、その方面の著書も多数。

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