最繁忙期の特急料金「+200円」は控えめ? JRが導入、ダイナミックじゃない変動料金の意図

「最繁忙期」の直前に「閑散期」 JRの意図は

 そのような中、わずか200円とはいえ、需要が大きい時期の「値上げ」が実現した背景にも運賃制度の事情があります。

 指定席特急料金は自由席特急料金と指定席料金の合計ですが、時間の対価である自由席特急料金は認可事項なのに対し、設備の対価である指定席料金は認可を必要としない届出事項であるため、比較的容易に料金を変更することができるのです。

 年末年始やGW、お盆は指定席需要に応えるため、多数の臨時列車が設定されますが、そのために必要な車両は、オフピークシーズンでは使用する機会がない遊休資産です。JR東日本によれば、季節ごとの需要を平準化し輸送力を有効活用する目的で、閑散期料金は国鉄時代の1982(昭和57)年に、繁忙期料金も同じく1984(昭和59)年に導入したといいます。今回の最繁忙期も、コロナ後の働き方や乗車スタイルの変化を踏まえ、輸送量のピークを平準化するために設定したと説明しています。

 季節ごとに指定席料金を変動させることで需要が平準化すれば、保有車両数などの削減が可能になり、経営効率化が図れるというわけです。輸送力あたりの収益を最大化するという意味では、これもイールドマネジメントといえるでしょう。

 従来の繁忙期は比較的広い期間に設定されていましたが、最繁忙期は輸送量のピークである年末年始やGW、お盆に集中的に設定されており、またGWと年末については最繁忙期の直前に閑散期を設けるなど、ピークシフトを強く意識した設定となっていることからもJRの意図が分かります。ただ、200円の価格差でどれだけ誘導できるかは不透明で、JRとしても今後の動向を見極めながら模索を続けていくようです。

 現在、JR東日本とJR西日本はピーク時の運賃を値上げする変動運賃制の導入に向けて国交省と協議をしています。まだ検討課題が多く、実現の目途はたっていませんが、将来的に特急料金も含めた変動運賃制が可能になれば、鉄道でも本格的にダイナミックプライシングが導入される可能性があるでしょう。

【了】

【カレンダー】「最繁忙期」適用ビフォーアフター

Writer: 枝久保達也(鉄道ライター・都市交通史研究家)

1982年、埼玉県生まれ。東京地下鉄(東京メトロ)で広報、マーケティング・リサーチ業務などを担当し、2017年に退職。鉄道ジャーナリストとして執筆活動とメディア対応を行う傍ら、都市交通史研究家として首都圏を中心とした鉄道史を研究する。著書『戦時下の地下鉄 新橋駅幻のホームと帝都高速度交通営団』(2021年 青弓社)で第47回交通図書賞歴史部門受賞。Twitter:@semakixxx

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コメント

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3件のコメント

  1. 一方でピークロードプライシング導入という話もあるが、一足飛びにそこに向かうには抵抗がある。そこで段階的に定期券の割引率をさげていく。将来的に定期券を無くすことができれば、その発行に要する手間を省き人的資源を他で活用できるのではないだろうか。中高生には新たに中人用ICカード運賃を設ける(たぶん役所への手続きは難しいのだろうが)。

  2. 「指定席特急料金は自由席特急料金と指定席料金の合計」じゃないと思うけどなあ。

    • 営業規則では指定席特急料金から値引きしたものを自由席特急料金とするのが基本ですが、新幹線については記事にあるとおり、自由席特急料金の認可を受け、JRのさじ加減で上乗せしたものを指定席特急料金とします。
      自由席特急料金からの嵩上げは常識的に考えて座席指定料金相当額程度ということで、自由席特急料金+座席指定料金=指定席特急料金という捉え方は間違いとも言い切れません。
      そうして決めた指定席特急料金から値引きしたものが営業規則で定める自由席特急料金ということになります。勿論、単純な計算でないものもありますが。
      認可される自由席特急料金額は上限であり、それから安くする分はJRの判断で決めてよいので、営業規則での自由席特急料金が同じとは限りません。