夜行バス“逆襲”へ? 縮小のなか新参入も増加のワケ【高速バス新潮流・長距離路線】

高速バス逆襲へ? 勝ちパターンは見えた

 旅行会社などの法人を相手にビジネスを行ってきた貸切バス事業者にとって、個人客を対象として展開する高速バス事業は、当事者の予想以上に難しいものです。なんとか参入できたものの、自己流で集客を図り結局は価格訴求に走ってしまう中小事業者も少なくないなか、帝産観光バスは、必要なコストを負担する代わりに、実績あるウィラーの販売ノウハウを活用することでリスクを避ける方法を選びました。

 また祐徳自動車は、佐賀県に根付いた路線バス事業者です。ウィラーが得意とするウェブマーケティングなどの「空中戦」と、地元での同社の「地上戦」との合わせ技で結果を出すことができれば、新しい成功パターンになることでしょう。

 2021年12月現在、コロナ禍収束も視野に入りますが、移動需要は完全には回復しない恐れがあります。このような長距離路線は、高コスト構造や、閑散日と繁忙日で需要の波が大きいことが壁となり、乗車率がわずかに下落するだけで赤字に転落します。それを理解しているからこそ、国は2012(平成24)年に法令を改正し「貸切バス型管理の受委託」や「幅運賃」といった新制度を認めました。そこに、今後へのヒントが隠れています。

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JR高速バスの続行便として運行する帝産観光バス。同社は従来から「貸切バス型管理の受委託」制度を活用し、他事業者の高速バスに助っ人として入ることがあった(成定竜一撮影)。

 近隣の路線を統廃合して平日の乗車率を底上げしつつ、連休や年末など繁忙日には「貸切バス型管理の受委託」を活用し、外部の事業者の車両と乗務員で続行便(2号車以降)を適切に設定する。「幅運賃」制度に基づくダイナミック・プライシングを導入する。そういった手法で、固定費を抑えつつ運賃収入を最大化できます。

 冒頭で紹介したJRバスの「乗合バス型管理の受委託」によるワンマン乗り継ぎ運行も含め、勝ちパターンは見えてきました。長かった「コロナ運休」が明けて、以前と同じに戻すだけなら、将来は厳しいままでしょう。しかし、従来の常識に囚われず貪欲に挑戦を重ねることで、危機を好機に変えることができるはずです。

【了】

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Writer: 成定竜一(高速バスマーケティング研究所代表)

1972年兵庫県生まれ。早大商卒。楽天バスサービス取締役などを経て2011年、高速バスマーケティング研究所設立。全国のバス会社にコンサルティングを実施。国土交通省「バス事業のあり方検討会」委員など歴任。新聞、テレビなどでコメント多数。

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コメント

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1件のコメント

  1. この記事について質問があります。
    「(祐徳自動車は)戦前からの歴史を持つ佐賀県の路線バス事業者ですが、貸切バス事業を大きく展開する一方、高速バスは運行していませんでした」
    と説明されています。
    しかしながら、過去に自社運行の高速バスを博多バスターミナルから嬉野温泉経由鹿島バスセンター・祐徳稲荷まで1日2往復運行していました。また、九州急行バスに出資しており、高速バスの運行に縁がなかったわけではありません。
    このあたりをリサーチしてから記事にして欲しかったです。