山あいの旧海軍「地下ひみつ基地」 特攻の赤とんぼ練習機 忘却の“最高機密”を甦らせた!
太平洋戦争の開戦前から終戦まで、日本海軍の飛行訓練機であった複葉機の九三式中間練習機、通称「赤とんぼ」。この橙(だいだい)色の練習機の原寸模型の展示が、熊本県の山中にある“ひみつ基地”で始まっています。
「赤とんぼ」と呼ばれた練習機の誕生
熊本県南部に位置する球磨郡錦町。山に囲まれた田園地帯を進むと、突如おしゃれな建物が現れます。ここは、2021年にリニューアルオープンした町立の人吉海軍航空基地資料館、「山の中の海軍の町 にしき ひみつ基地ミュージアム」です。
この資料館展示における目玉のひとつが、旧日本海軍が飛行訓練に使用した、目にも鮮やかなオレンジ色の九三式中間練習機、通称「赤とんぼ」の原寸模型。しかし、なぜこんな海から離れた場所に海軍基地の資料館と練習機があるのか。その謎を探ると、資料館の名称に「ひみつ基地」という文言が入った経緯や、機体の由来が明らかになりました。
九三式中間練習機(分類記号K5Y)は、旧日本海軍のパイロットを養成するための練習機として、すでに開発済みであったふたり乗り複葉機(主翼が2枚ある飛行機)の九一式中間練習機をベースに誕生した軍用機です。九一式の改良作業は川西航空機(現新明和工業)と海軍航空技術廠が共同で行い、1933(昭和8)年12月に試作され、翌1934(昭和9)年1月には早くも制式化されました。
機体は、木製または金属製の骨組に羽布を張ったオーソドックスな構造でしたが丈夫で、なおかつ曲技飛行が可能なほど操縦性に優れ、取扱いも容易なバランスが取れた練習機に仕上がっていました。
ちなみに九三式の「中間」とは、100馬力クラスの初等練習機と500馬力クラス以上の高等練習機の間に位置する300馬力クラスのエンジンを搭載していたことから名付けられた名称で、最高速度は210km/h程度でした。
こうして完成した九三式は、川西航空機のみならず三菱重工や中島飛行機(現SUBARU)、日立航空機、日本飛行機など海軍御用達の航空機製造会社で広く生産され、その数は5800機近くにもおよびました。また、車輪を取り付けた陸上仕様の九三式陸上中間練習機(K5Y1)だけでなく、降着装置をフロート(浮舟)に換装した水上機型の九三式水上中間練習機(K5Y2)なども造られます。
そして、外観は訓練機として識別しやすい橙(だいだい)色に塗られたことから、いつしか「赤とんぼ」と呼ばれるようになりました。
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