新たな超音速旅客機の「軍用機型」開発へ 使い道は? 空の“嫌がらせ”振り切るスピード
軍事面での使い道は?
ブーム社とノースロップ・グラマンは軍用機型オーバーチュアの潜在的な用途として、人員輸送、医療支援、ISR(情報収集・監視・偵察)を挙げています。
オーバーチュアの座席数は65~80席を想定しており、大量の人員を輸送するのには適していません。また、胴体の形状から見て大きな貨物の搭載も困難なはず。ブーム社とノースロップ・グラマンは、現在ボーイング757をベースとする要人輸送機C-32Aや、ボーイング737-700をベースとする人員輸送機C-40が担当している要人の輸送を想定しているのではないかと筆者(竹内 修:軍事ジャーナリスト)は思います。
旅客機型のオーバーチュアは、東京とシアトルの間を4時間30分、ニューヨークからロンドンまでを3時間半で飛行することを目標としています。現在エアラインが運航している東京~シアトル線の飛行時間は9時間(東京→シアトル)から10時間(シアトル→東京)です。その半分程度の時間で飛行できるオーバーチュアの軍用機型がアメリカ空軍に採用されれば、政府要人の海外出張の効率の向上と、出張に伴う要人の肉体的な負担の大幅な軽減を見込むことができます。
その一方でノースロップ・グラマン・アエロノーティクス・システムズのトム・ジョーンズ社長はオーバーチュアが「隊員」の輸送を想定しているとも述べており、大がかりな装備を携行しない特殊部隊の隊員などの輸送なども視野に入れているのかもしれません。
前にも述べたようにオーバーチュアは大きな貨物の搭載も困難であることから、大規模災害発生時の支援物資の輸送などには適していませんが、かさばらない医薬品や医療スタッフを迅速に投入するという任務であれば、最適な航空機となり得ると筆者は思います。
中国機を振り切れ!? そのスピードをどう活かす
ブーム社とノースロップ・グラマンは、オーバーチュアの軍用機型のISR(情報・偵察・監視)任務でどのように活用するのかを具体的には語っていません。ただ、他国の通信情報などを傍受する電子偵察機や、洋上監視機としての活用を想定していると筆者は思います。
たとえば,中国はしばしばアメリカやオーストラリアの電子偵察機や洋上哨戒機に戦闘機を急接近させるという嫌がらせを行っていますが、現在運用されている電子偵察機や洋上監視機は亜音速機のため、接近してくる戦闘機を振り切ることができません。オーバーチュアならば、このスピード勝負に勝てる可能性があります。
中国やロシアの戦闘機の大多数はアフターバーナーを使用しなければ超音速飛行を行うことができず、またそれを使用して長時間飛行することもできません。アフターバーナーを使用せずに超音速で飛行する「スーパークルーズ」能力を実証しているF-22AやサーブJAS39E「グリペン」などの戦闘機もありますが、超音速で巡航飛行することを目標としているオーバーチュアを電子偵察機や洋上哨戒機に使えば、戦闘機が嫌がらせを行うことは困難であると考えられます。
ブーム社とノースロップ・グラマンはオーバーチュアの軍用機型を、アメリカとその同盟国に提供していく方針を示していますが、空軍が最大6,000万ドルの開発資金を提供したアメリカ軍がどのような使い方を構想しているかで、オーバーチュアの軍用機型のあり方と成否は決まると筆者は思います。
【了】
Writer: 竹内 修(軍事ジャーナリスト)
軍事ジャーナリスト。海外の防衛装備展示会やメーカーなどへの取材に基づいた記事を、軍事専門誌のほか一般誌でも執筆。著書は「最先端未来兵器完全ファイル」、「軍用ドローン年鑑」、「全161か国 これが世界の陸軍力だ!」など。
コメント