台湾海軍どう出る? 切り札ミサイル艇が使えない 潜水艦も数足りない! 強化が急務に
太平洋側の防備に必須の潜水艦戦力
ただ、ミサイル艇は、Kuang Hua VI型が就役した10年前であれば、かなり有効な沿岸防衛用の装備といえたものの、その後、中国の海軍と空軍が急速に近代化されたことで、現在では戦力としては急速に陳腐化しています。
というのも、高性能な火器管制システムを中国軍の水上戦闘艦が積むようになったことで、各種火砲やミサイルをピンポイントで狙い撃ちできるようになったため、いくら高速で小回りが利くミサイル艇とはいえ、逆に制圧されてしまう状況が現出しているからです。
しかも冒頭に記したように、2022年8月2日から3日にかけて、アメリカ下院議長のナンシー・ペロシ氏が台湾を訪問すると、それに対する示威行動として、同氏が同国を離れた直後の8月4日から7日にかけて、中国は台湾の全周にわたる海域において大規模な軍事演習を実施しました。
この演習が意味するところは、いまだ中国海軍が未熟だった頃の台湾海峡渡航による「正面玄関からの台湾侵攻」に加え、台湾海峡とは反対側の南シナ海(太平洋)側からの「裏口からの台湾侵攻」も可能になったことを示しています。逆にいうと、中国はそれらを併用することにより、台湾への侵攻を企図する可能性が高まったといえるでしょう。
南シナ海は、台湾海峡とは違って水深もあるので潜水艦は有効な侵攻阻止兵力となりえますが、台湾海軍の保有隻数は、前述したようにわずか4隻。同じく広海面での作戦行動に適した駆逐艦やフリゲートも、前者が4隻で後者が22隻と決して多いわけではなく、しかもこの数には旧式艦も含まれています。
唯一の救いは、台湾の南シナ海側には上陸作戦の実施が可能な、広めの平野に連なった海岸が限られている点でしょうか。
このところ、中国軍機が毎日のように台湾の防空識別圏(ADIZ)への侵入を繰り返しています。これは、一触即発の偶発戦争に発展しかねない危険な行為であり、仕掛けている中国側は、その気になれば容易に事態に「火を付ける」ことができます。
危機的状況が高まる現在、台湾にとってはその海軍力の整備と強化が、武力侵攻を阻止するうえで急務となってきているのです。
【了】
Writer: 白石 光(戦史研究家)
東京・御茶ノ水生まれ。陸・海・空すべての兵器や戦史を研究しており『PANZER』、『世界の艦船』、『ミリタリークラシックス』、『歴史群像』など軍事雑誌各誌の定期連載を持つほか著書多数。また各種軍事関連映画の公式プログラムへの執筆も数多く手掛ける。『第二次世界大戦映画DVDコレクション』総監修者。かつて観賞魚雑誌編集長や観賞魚専門学院校長も務め、その方面の著書も多数。
コメント