旧共産圏も続々導入 なぜF-35は欧州を席巻? 次期「NATO標準戦闘機」ほぼ決まりか
ロシアのウクライナ侵攻が決定打に
これだけでもF-35は採用国を増やすためのアドバンテージをかなり持っているといえますが、2022年2月にロシアがウクライナに侵攻したことが、NATO加盟国のあいだで同機を採用するのに追い風となったことも間違いありません。
この非常事態に対して、アメリカを始めとしたNATO諸国はウクライナへの支援を続けていますが、かつてNATOの仮想敵であった旧ソ連系兵器を主体としたウクライナに、それまで運用経験がなく規格も異なるNATO規格の兵器類を急に提供しても即用できないため、開戦当初は、旧ワルシャワ条約加盟国で現在はNATOに加盟しているチェコやスロバキア、ポーランドといった旧共産圏の国々が、保有していた旧ソ連系兵器を提供するという事態になりました。
これは、国際的な軍事同盟では常々議論されてきたインターオペラビリティ(相互運用性)の問題であり、それがより切実になった事例といえます。特に国防予算の問題などから高額なF-35の導入に二の足を踏んでいたNATO加盟各国も、「いずれは第5世代戦闘機を導入しなければならないし、ウクライナの件がインターオペラビリティの重要さを今更ながらに浮き彫りにしたし」と考えて、F-35の導入を決断した面も大きいのではないでしょうか。
その結果、NATO加盟国に限定した場合、2022年9月現在、開発国アメリカ以外にイギリス、イタリア、ノルウェーがF-35の運用を始めているほか、カナダ、オランダ、デンマーク、ベルギー、ポーランド、フィンランド、ドイツ、チェコ、スペイン、ギリシャなどが調達を決定、もしくは導入を表明しています。
同じく9月現在、NATO加盟国は30か国。そしてスウェーデンとフィンランドの2か国がほぼ加盟目前の状況です。そのなかで、F-35Aを導入ないし、導入決定や前向きであることを表明しているのは、前出の計15か国。すなわちNATO加盟国のほぼ半分の国がF-35を国防に用いようとしているといえるでしょう。
そう考えると、F-16に続く次なる「NATO標準戦闘機」のあだ名は、間違いなくF-35に与えられることになりそうであり、もしかするとF-16以上の生産数となるかもしれない可能性もはらんでいるといえます。
【了】
Writer: 白石 光(戦史研究家)
東京・御茶ノ水生まれ。陸・海・空すべての兵器や戦史を研究しており『PANZER』、『世界の艦船』、『ミリタリークラシックス』、『歴史群像』など軍事雑誌各誌の定期連載を持つほか著書多数。また各種軍事関連映画の公式プログラムへの執筆も数多く手掛ける。『第二次世界大戦映画DVDコレクション』総監修者。かつて観賞魚雑誌編集長や観賞魚専門学院校長も務め、その方面の著書も多数。
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