『ガンダム』世界でジオンなぜ軍備拡充バレなかった? 史実にみる民生品隠れ蓑の兵器開発

「ムサイ級」軽巡はもともと客船だった?

『ガンダム』世界においてジオンが初めて軍事力を保持したのは、宇宙世紀0069年のこと。最初はプラズマロケットと科学燃料ロケットで推進する旧世代のミサイル戦艦を改装して保有しました。これが後に「パプア級補給艦」となった艦艇です。

 宇宙世紀0070年には「チベ級戦艦」も就役します。これはレーザーなどではなく実体弾を撃ち出す口径30cmの主砲を装備しているものの、旧式エンジンで、後に近代化改装して「重巡洋艦」に艦種替えしています。

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それぞれの軍艦も客船として公表されていた可能性も(イラストレーター:ジャック・ハムスター)。

 ジオンは旧式艦の保有で、地球連邦軍には脅威に映らないようにアピールしつつ、軍の人員を訓練していたと考えられます。しかし、直後に連邦軍は「すべてのコロニーを無寄港で周回できる」航続力と、新兵器・メガ粒子砲を搭載した「マゼラン級戦艦」を就役させ、ジオンを威圧しました。このやり方は、軍事力への対抗手段を誇示したといえるでしょう。

 なお、開戦時のジオン軍は「ムサイ級軽巡洋艦」を主力としていました。この艦艇は「MSの発進ハッチが進行方向の後ろ向きについている」という不思議な設計です。

 敵と逆の方にMSを射出したら、反転して「ムサイ」を追い抜かねばなりません。これは推進剤を余計に使いますから不合理です。実際、ガンダムの宇宙艦艇でこんな設計の艦型は他にありません。また、敵の攻撃に対して打たれ弱いことも気にかかります。

 実際、ムサイ級軽巡洋艦は『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』(パラレルワールドですが)では、「アルカナ級民間貨客船」としても登場しています。なお、「ムサイ級」は艦橋を上にして、三角形の隅にエンジンがついていますが、「アルカナ級」はエンジンが上で、艦橋を下にしています。

 貨客船として使うのであれば、軍艦時にモビルスーツを搭載するスペースは、客船時の貨物搭載スペースになるでしょうから、ハッチは後ろ側に向けて開いた方が、コロニーの港での荷物の積み下ろしは容易でしょう。大型客船「橿原丸」級として建造された、旧日本海軍の空母「隼鷹」級で語られたエピソードのひとつ、「客船としての快適性を考慮した船体設計」ゆえに可燃物だらけで苦労したというのを連想させます。

 そうなると大艦巨砲主義の中で建造された、戦艦「グワジン級」も、優美な外見から「客船として建造された可能性」を想起します。

 以上、現実世界と「ガンダム」の兵器偽装について推察しました。一見、不合理そうに見えるムサイ級の設計も「客船として偽装建造された」と考えると、合理的というのは、『ガンダム」のSF性を現しているように感じて、興味深いところです。「その兵器を、平時はどう公表していたのか」も想像できる、よくできた世界観と思う次第です。

【了】

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Writer: 安藤昌季(乗りものライター)

ゲーム雑誌でゲームデザインをした経験を活かして、鉄道会社のキャラクター企画に携わるうちに、乗りものや歴史、ミリタリーの記事も書くようになった乗りものライター。著書『日本全国2万3997.8キロ イラストルポ乗り歩き』など、イラスト多めで、一般人にもわかりやすい乗りもの本が持ち味。

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1件のコメント

  1. ガンダムに関してはすべて後付け設定。