在スーダン邦人輸送で自衛隊が制度上「危険地帯」で活動可能になったワケ 活きたアフガンの経験

輸送の安全を巡る改正と武器使用

 さらに、在外邦人等の輸送を実施する際の安全性についても法改正が行われました。従来の規定では、輸送を行うに際して、防衛大臣が予想される危険やこれを避ける方策を外務大臣と協議し、その結果「輸送を安全に実施することができると認めるとき」に実施できるとされていました。

 しかしこれでは、あたかも民間機の運用が可能といった安全な状態でしか輸送任務を実施できないのではないかという誤解を招くおそれがありました。

 そのため、現在では「(防衛大臣が)当該輸送において予想される危険及びこれを避けるための方策について外務大臣と協議し、『当該方策を講ずることができると認めるときは』(筆者強調)」輸送を実施できるという規定に改められました。つまり、危険を減じるような方策をとれるのであれば、輸送を実施できるというわけです。

 ちなみに、具体的には現地の空港の安全確保や自己防護装置(ミサイルを回避するチャフやフレア、さらに機体への防弾板付加)などがこの方策に含まれるとされています。

 また、直近の改正部分ではありませんが、輸送任務にあたる自衛官には武器使用の権限も与えられています。まず、自衛隊法第94条の6に基づき、自衛官自身や輸送対象者、さらに任務を行う過程で自衛官の管理下に入った人たちを守るために武器を使用すること(いわゆる「自己保存型武器使用」)ができます。さらに、輸送機や艦艇、車両などを防護するための武器使用(自衛隊法第95条「武器等防護のための武器使用」)も認められています。

 今回の輸送任務では、さっそくアフガニスタンの事例で得られた貴重な経験と法改正、そして何よりこれにあたった防衛省・自衛隊、外務省を含む全ての日本政府関係者の努力によって、非常にスムーズな活動を行うことができました。今後、緊張関係が高まっている台湾や北朝鮮の情勢次第では、再びこの在外邦人等輸送が注目を集めることになるかもしれません。

【了】

【写真】救出を喜び合う人々

Writer: 稲葉義泰(軍事ライター)

軍事ライター。現代兵器動向のほか、軍事・安全保障に関連する国内法・国際法研究も行う。修士号(国際法)を取得し、現在は博士課程に在籍中。小学生の頃は「鉄道好き」、特に「ブルートレイン好き」であったが、その後兵器の魅力にひかれて現在にいたる。著書に『ここまでできる自衛隊 国際法・憲法・自衛隊法ではこうなっている』(秀和システム)など。

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