“水素”大型トラックはEVに勝る? ヤマトら日本初の走行実証開始 まだ使っちゃいけない切り札も
EVとは違う、FCEVの長所とは 未来志向の「充填口2つ」
大型トラックのCO2削減対応では、たとえばアメリカでテスラ社が「セミ」で、コンテナを牽引するトレーラーヘッドのEV化を実現しました。一方、日本ではFCEVによる対応が先行しました。FCEVの長所は何でしょうか。
「航続距離と積載量で、BEV(バッテリー式の電動車)に対して優位性があると考えています」(前同・真鶴氏)
FCEVの運行では検証すべき課題があります。実証実験に使われる大型FCEVトラックには、水素の充填口が2口装備されました。充填口は1口が一般的です。これが実証実験の課題にもつながる点です。ヤマト運輸で輸送実務を担当する輸送オペレーションマネジメント部の堰向(せいむかい)直彦シニアマネージャーは、こう話します。
「ディーゼル車と比較して大型FCEVの運行管理上の違いは、充填に係る時間です。水素の充填には20~30分程度とみていますが、実際の走行後にどれくらい必要なのか。ここが大きな実証が必要な部分です」
堰向氏の話す充填時間は1口の充填口を使った場合に必要な時間です。2口の充填口を使った水素の補充は規格が定まっていないため、現状ではできませんが、あえて次世代規格に備えました。2つの充填口を活用できれば、充填時間はさらに短縮できます。
しかし、モビリティのカーボンニュートラルは、車両メーカー、エネルギーインフラ事業者、ユーザーである事業者の3者が、需要をにらんでいわゆる三すくみ状態にあります。「今のところ、いつ新しい水素充填規格が決まるかは未定です」(資源エネルギー庁新エネルギーシステム課担当社)。せっかく実証へと踏み出したわけですから、新しい水素充填規格で実現性を高めてほしいものです。
実証実験では、運転者の労働環境向上も注目されています。大型FCEVはエンジンの振動がなく静かなので、ドライバーの疲労軽減に役立つことが期待されています。また、荷物を満載した場合にも、EVと同じモーターの力強さがあるので、操縦性の高さもあります。コスト面から考えると市販化はまだ先ですが、実際の輸送での活用データが、さらに大型FCEVの性能向上に役立てられることはまちがいありません。
【了】
Writer: 中島みなみ(記者)
1963年生まれ。愛知県出身。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者を経て独立。行政からみた規制や交通問題を中心に執筆。著書に『実録 衝撃DVD!交通事故の瞬間―生死をわける“一瞬”』など。
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