空自F-35の基地をオーストラリアへ “遠さ”が武器になる理由 でも法的に問題ないの?

自衛隊への基地提供が問題とはならない理由

 実はこの中立義務は2023年現在、その内容が大きく揺らいでいます。かつては、戦争を行うこと自体は法的に禁止されていなかったため、すべての交戦国を公平に扱う公平義務が成立していました。ところが、現在では基本的に国家が武力を行使することが禁じられているため、それを破って違法に武力を行使した側と、それに対して自衛権を行使して合法的に武力を行使している側という区別が可能となりました。

Large 230821 aust 02
「日豪空中給油に関する覚書」への署名の様子(画像:航空自衛隊)。

 そのため、現在はこの公平義務が消滅し、自国の独自の判断に基づいて自衛権を行使している国を支援することが可能になったと考えられています。とはいえ、同じく自国の判断として中立国になることも禁止されているわけではありません。要するに、現在は自国が中立国となるかどうかを選択でき、オーストラリアがその選択しなければ、自衛隊による基地使用は問題ないという解釈になるのです。

 このように、交戦国でも中立国でもなく、交戦国の一方に対する支援を行う国を「非交戦国」といいますが、たとえば現在進行形で行われているロシアによるウクライナへの違法な侵攻に際して、ウクライナにさまざまな支援を行っている国々は、まさにこの非交戦国として説明されます。

 今回の機動展開訓練が示すように、日豪間の協力体制強化は今後もより一層強化されていくでしょう。その目的は、戦いを起こそうとすることではなく、逆に攻撃をしようという相手の考えをくじき、それを抑止することになることを忘れてはなりません。

【了】

オーストラリア空軍のF/A-18「スーパーホーネット」に乗り込む空幕長

Writer: 稲葉義泰(軍事ライター)

軍事ライター。現代兵器動向のほか、軍事・安全保障に関連する国内法・国際法研究も行う。修士号(国際法)を取得し、現在は博士課程に在籍中。小学生の頃は「鉄道好き」、特に「ブルートレイン好き」であったが、その後兵器の魅力にひかれて現在にいたる。著書に『ここまでできる自衛隊 国際法・憲法・自衛隊法ではこうなっている』(秀和システム)など。

最新記事

コメント

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleのプライバシーポリシー利用規約が適用されます。