「後ろ向きの主砲どうやって使う?」対戦車自走砲「アーチャー」前後あべこべがむしろイイ!その理由

前後逆だからこそ使いやすかった?

 こうして、長砲身の大砲を、前後逆に搭載した前代未聞の車両「アーチャー」が誕生したのです。ちなみに、イギリス軍ではオープントップの全周旋回砲塔を備えた対戦車車両を「駆逐戦車(または戦車駆逐車)」と称し、固定戦闘室を備えた対戦車車両を「対戦車自走砲」と称する傾向がありました。これに沿うと、前出の「アキリーズ」は駆逐戦車になるのに対し、「アーチャー」は対戦車自走砲になります。

 なお、同じ17ポンド砲を搭載した「アキリーズ」が主に機甲師団の対戦車部隊に配備されたのに対して、「アーチャー」は主に歩兵師団の対戦車部隊に配備されました。この理由はきわめて単純で、同車は牽引式17ポンド砲の代替と考えられていたからです。

 そのため、「アキリーズ」が戦車とともに積極的な「戦車狩り」に加わる機会も多かったのに比べて、「アーチャー」は事前に構築された戦車壕で防御的対戦車戦に用いられることが多かったようです。

Large 240219 archer 03

拡大画像

1957年のイスラエル独立記念日でパレードする「アーチャー」対戦車自走砲。写真に写っている方は後ろ姿(画像:イスラエル国防軍)。

 ただ、その戦い方は、前述したような特異な構造を持つ「アーチャー」にベストマッチするものでした。なぜなら、このような戦闘時は適宜、射撃した後、事前に用意しておいた別の戦車壕へと移動して戦闘を継続することが間々あります。

 その際に、後ろ向きで移動できるというのは好都合であり、大威力であることも含めて、意外な使い勝手の良さゆえに、前線では好評を博しました。

 だからか、「アーチャー」は大戦中に655両も生産されています。もし「使えない兵器」であったなら、これほどの数が造られることはあり得なかったでしょう。

 なお、やはり使い勝手が良かったからなのか、大戦後もエジプトやヨルダンなどでしばらくのあいだ、運用され続けました。

【了】

【運転席はドコ?】実はオープントップの「アーチャー」自走砲(車内を見る)

Writer: 白石 光(戦史研究家)

東京・御茶ノ水生まれ。陸・海・空すべての兵器や戦史を研究しており『PANZER』、『世界の艦船』、『ミリタリークラシックス』、『歴史群像』など軍事雑誌各誌の定期連載を持つほか著書多数。また各種軍事関連映画の公式プログラムへの執筆も数多く手掛ける。『第二次世界大戦映画DVDコレクション』総監修者。かつて観賞魚雑誌編集長や観賞魚専門学院校長も務め、その方面の著書も多数。

最新記事

コメント

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleのプライバシーポリシー利用規約が適用されます。