ここで「カンパ~イ」できるなんて! 鉄道ファン至高の瞬間、大井川鐵道の「珍ビール列車」

お酒が飲めない筆者は…

 大井川鐵道のビール列車はコロナ禍で一時中止となりましたが、それ以前は長らく新金谷~千頭間を電気機関車+旧型客車+お座敷車+展望車の編成で往復走行し、車内にビールサーバが設置されていました。この時すでに旧型客車を使用していましたが、トイレ用の控え車両としての連結で、定員はお座敷車+お座敷車+展望車の3両でした。

 これらの車両には座席もテーブルも配置済みであり、この手のイベント列車にはうってつけの存在。名物広報の山本豊福さんによると、2024年に旧型客車のみの編成となった際にテーブルが必要となり、ボックス席へ収まるテーブルを特注したのだそうです。

 では、いつからビール列車を走らせていたかというと、1984(昭和59)年から。ちょうど40年前です。開始当時はまだ昭和ですから、昭和時代の追体験がコンセプトではなく、暑い季節を楽しんでもらうのがきっかけだったのです。

「ビール列車としては先駆け、草分け的存在となりますね。会社は個性的なものを走らせたい使命感があったのでは?」と山本さん。40年前のビール列車では、側窓を廃したクハ861形納涼電車(元・名鉄3800系を改造)が使用されていました。

 ここまで、さも“飲んできた”ように書いてきた筆者(吉永陽一:写真作家)ですが、実は体質変化で下戸になってしまい、酒は一滴も受け付けません。それでも、結果として大満足でした。もちろんソフトドリンクやおつまみなど持ち込み可能で、グループで参加すれば通路を挟んで会話も飲食もはずみ、往年の急行列車旅のように和気あいあいの空間となりました。

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出札窓口の前に置かれたビールサーバ。ビールはセルフではないので失敗せずに済む。サッポロ静岡麦酒を使用していた(2024年8月16日、吉永陽一撮影)。

 列車は適度なスピードで快走し、車窓には暮れゆく井川路の光景が映し出されます。家山駅では薄暮で浮かび上がる旧型客車を眺めながら、淡い提灯の光と木造の暖かい空間に包まれて、名物静岡おでんを頬張る。正直、ビール列車だけど酒がなくても楽しめ、子ども連れの参加も多く見られました。

 今期のビール列車は週末を中心に9月14日(土)まで運行されます(最終日は満席)。山本さんによると、ビール列車を通じて来た人に楽しんでもらおうと、2024年はこの2両編成と行程を提供し、来年以降はどんな形で運行するかアイディアをひねっていくとのことです。

【了】

【写真】これが旧客で呑む「ビール列車」車内です

Writer: 吉永陽一(写真作家)

1977年、東京都生まれ。大阪芸術大学写真学科卒業後、建築模型製作会社スタッフを経て空撮会社へ。フリーランスとして空撮のキャリアを積む。10数年前から長年の憧れであった鉄道空撮に取り組み、2011年の初個展「空鉄(そらてつ)」を皮切りに、個展や書籍などで数々の空撮鉄道写真を発表。「空鉄」で注目を集め、鉄道空撮はライフワークとしている。空撮はもとより旅や鉄道などの紀行取材も行い、陸空で活躍。

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