結論「鉄道はムリ」 富士山の登山鉄道構想が“八方塞がり”になったワケ 代替案は“さらにデカい構想”に
こうして鉄道構想は「詰んだ」
同じく10月に発表された技術課題の調査検討結果でも、専門家らは最急勾配が88パーミル(水平1000mで88mの高低差)という急勾配や、最小曲線の半径27.5mを含めて急曲線部(ヘアピンカーブ)が複数存在するなどの難問を突き付けました。路面電車の技術上の基準を定めた国土交通省令の軌道建設規程が、最急勾配を40パーミル、最小曲線を半径81mとしているのに比べて勾配が大きく、カーブも急なのが分かります。
調査検討結果では、1月には例年マイナス20度以下になるなど気象条件が過酷な中で、冬季の降雪や凍結に対応する必要性にも言及しました。
逆風に追い打ちを掛けたのが、反対の声です。地元の富士吉田市の堀内茂市長が線路敷設による環境破壊懸念から反対してきたほか、市民団体が11月8日に富士山登山鉄道構想の撤回を求める署名約7万筆を長崎知事に提出。長崎知事らは11月13日、構想に反対する3つの団体から意見の聞き取りを行いましたが、軌道敷設に加えて車両基地の整備や変電所の新設などの大規模工事も環境破壊につながるといった批判が寄せられました。
「電車とバスのイイトコドリ」で代替なるか?
こうした課題や反対意見を踏まえて長崎知事は11月18日、LRTの導入を断念し、代わりに富士スバルラインを含めた道路をゴムタイヤで走る新交通システムの導入を提案しました。
「富士トラム」(仮称)と名付けた車両は自動運転も視野に入り、走行中に二酸化炭素(CO2)を排出しない燃料電池で動かす計画です。長崎知事は「まさに電車とバスのいいところ取りとなる」と自信を示しました。
導入する車両は未定ですが、候補の1つが中国の鉄道車両メーカー、中国中車(CRRC)グループが開発した「ART」です。外観はLRTに使われることが多い低床式車両と似ており、車両に設けた光学式センサーが道路上の白線を読み取って走ります。
ただ、長崎知事は同じような製品を「できれば日本の企業の中で取り扱ってほしいし、できれば製造拠点が山梨県になればなお良い」と表明しました。
さらに、JR東海が東京(品川)~名古屋間で建設中のリニア中央新幹線の“山梨県駅”で新交通システムを接続させて「新駅を富士山の玄関口とすることで、リニアの停車本数の増加を目指して参りたい」との方針を示しました。
これまで“富士山5合目と麓”の範囲のみに焦点が当たっていましたが、新交通システムは「富士山5合目と甲府のリニア新駅」のルート、そこから県内各地への二次交通を構築するという広域のイメージが示されています。
富士山を駆け上がる電車の「乗り鉄」が実現しないことは残念な面もありますが、貴重な自然環境の保護のためには致し方ないかもしれません。日本最高峰にふさわしい高度な技術の代替交通手段が実用化することを期待したいところです。
【了】
Writer: 大塚圭一郎(共同通信社経済部次長・鉄旅オブザイヤー審査員)
1973年、東京都生まれ。97年に国立東京外国語大学フランス語学科卒、共同通信社に入社。ニューヨーク支局特派員、ワシントン支局次長を歴任し、アメリカに通算10年間住んだ。「乗りもの」ならば国内外のあらゆるものに関心を持つ。VIA鉄道カナダの愛好家団体「VIAクラブ日本支部」会員。
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